セントラルの雨

意識を高めてゆく

2017/05の一冊と一枚『夜は短し歩けよ乙女 / 森見 登美彦』『Oranges & Lemons / XTC』

GWに喜んだり憂鬱になったりしながらシンデレラのライブに行ってたらもう5月が終わりそう。年がら年中やる気はないので今ひとつ実感はないのだが、まあ今月あまり記事がかけなかったのは5月病のせいだとそういうことにしてしまおう。



夜は短し歩けよ乙女 / 森見 登美彦

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

日劇場アニメを見に行って、それが大変面白かったので原作にも手を出す。(両方のネタバレを容赦なくしていく宣言)
本の帯に「恋愛ファンタジーの傑作!」とあったが、映画を見た時は、ストーリーこそ学生の青臭い恋愛が主軸とはいえあまりの破天荒さにそういう印象がかなり薄かった。「女の子と見に行けるような映画だった?」と問われたときにはまあ人生にそういう観点で物事を考える機会がまるでなかったことを置いておいても「あーそうといえばそうなんじゃないか……」みたいに大変歯切れの悪い答えしか出てこなかったものだ。それ故に原作でそんな煽りを見たときには「ええー?本当に恋愛小説でござるかあ?」と心のなかで思ったものだが、しかし実際読んでみると、これ、恋愛小説じゃないか。

るべくノジョのに留まる」ナカメ作戦を代表としてひたすら回りくどい戦法ばかりを取り続ける「先輩」と、ひたすらマイペースで我道を進む「黒髪の乙女」が、一年間のあれこれのすれ違いを経て、ご都合主義っぽい展開もあり、なんやかんやでくっつくというストーリー。物語は両者の語り口調で綴られていくのだが、その気取りながらもユーモラスでカジュアルな文体が小気味よいのが魅力。アニメという媒体に比べて、一人称で語られる小説は主人公両名の心理描写がより細かくなるため、映画と大筋は変わらないもののより自然に恋愛モノとして感じられたのかもしれない。特に「黒髪の乙女」の方は劇場版で超人じみていたのが少しだけ等身大のキャラクターになったかな、という印象。いやそれでもあり得ないぐらいお人好しでなかなか現実離れしているのだが。

トーリーは4章構成で、それぞれが春夏秋冬を舞台にしている。現実と幻想が交錯したような独特の森見京都ワールドで、個性豊かな面々がしっちゃかめっちゃかする中で、「先輩」と「黒髪の乙女」は少しずつ接近していく。
各章でそれぞれ連続的で入り乱れた人間模様が繰り広げられており、恋仲へと収束する二人の結末を含め、人と人との奇妙なつながりや縁が描かれている。

ところで、これが劇場版だとかなり大胆なアレンジが施されており、この4章を全て「奇妙な一夜の物語」として描いていた。このより強まったファンタジーさがアニメのカラフルかつ奇妙なビジュアルときっちりハマって、夢の中にいるような独特で不思議な感覚が味わえるわけだ。
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驚くのが原作の小説という媒体から映画作品へと作り変える上でのストーリー再構成の手腕。パンツ総番長や事務局長といったキャラクターを序盤から配置し、4章構成の物語を90分の尺でスムーズに流れるように見せていたのが実に巧みだった。
展開がかなり異なっていた3章「御都合主義者かく語りき」にあたる部分で、事務局長の女装趣味や東堂の鯉などの要素を伏線へと昇華させ、ますますご都合感溢れる物語としての力を高めてきたのも面白い。
更に映画では、「夜は短し歩けよ乙女」というタイトルを膨らませ四季を巡る奇妙な一夜の物語として仕立てることで、そこから乙女と李白老人との体感時間の差というところまで話を広げてくる。恐ろしく早い時間の中で人生の味気なさを嘆く李白老人は、天真爛漫であらゆる事に希望と楽しみを見出す乙女と触れ合うことで、その自身の体感時間の呪縛から解放される。
ここで何よりも凄いのがこの夢のような90分のなかでこの話をすることで、我々視聴者の感覚と登場人物との感覚がシンクロすることだ。長い長いたった90分の素晴らしい一夜を体験した我々は、この体感時間の不思議さを否応なしに理解してしまうのだ。
そしてこれをやるためには、本当に面白いエンターテイメント映像作品でなくてはならないわけで。こんな自信に満ち溢れたことを実際やってそして成功させてしまうのは本当に凄い。特に終盤で先輩の夢の世界で乙女が奮闘するあたりは、劇場アニメならではの大迫力のアクションシーンが繰り広げられ、まさにアニメーションとしての楽しみに満ちていた。こんなものを延々と見せられてからの最高にクールにアジカンのエンディングを流された日には、もはや敗北感しかないわけだよホントに。いやあすごい映画だったなあ。

あれ? 本についての感想のつもりが映画の感想になっている……。まあ、映像から原作に手を出してなお良かったなと思える作品っていうのは本当に素敵なものだと思う。こういうパターンで原作に手を出すと、先に語ったように映像作品の再構成の見事さに舌を巻くと同時に、媒体が変わってなお色褪せない原作の魅力に驚くのだ。多くの人が関わって作り上げた「夜は短し歩けよ乙女」という作品に改めて拍手したい。

Oranges & Lemons / XTC

Oranges & Lemons

Oranges & Lemons

トラック

  1. Garden Of Earthly Delights
  2. The Mayor Of Simpleton
  3. King For A Day
  4. Here Comes President Kill Again
  5. The Loving
  6. Poor Skeleton Steps Out
  7. One Of The Millions
  8. Scarecrow People
  9. Merely A Man
  10. Cynical Days
  11. Across This Antheap
  12. Hold Me My Daddy
  13. Pink Thing
  14. Miniature Sun
  15. Chalkhills And Children

UKのポップでロックで変態なバンドXTCの9thアルバム。
このアルバムもまた実にポップで、それでいて捻くれ感全開のアルバム。キャッチーな音作りは完全に良質のポップミュージックのそれだと思うのだが、変則的なリズム・構成そしてメロディがどいつもこいつも炸裂していて一筋縄ではいかない。ここらへんのセンスが英国流ということなのだろうか。 後のブリットポップにも多大な影響を与えたらしいが、たしかにその代表選手Blurなんかのひねくれ感にもなかなかに影響を感じ取れるような気も。
アルバムは15曲約一時間となかなかのボリューム。透明感のあるギターと単純に良いメロディーが美しい『King For A Day』、スタジアム・ロックっぽい極太ギターから始まるロックナンバー『The Loving』、奇妙なリズムを刻み続けるドラムに不思議な響きのギターで遊び心に溢れた『Scarecrow People』やたらと陽気な曲調からのリズミカルなギターが楽しい『Pink Thing』、浮遊感の中美しい色彩が目に浮かぶような幻想的な空気感が魅力のラスト・ソング『Chalkhills And Children』などなど実にバリエーションに富んでいる。
そんな中でとにかく良いのが最初の二曲の流れ。開幕を飾る『Garden Of Earthly Delights』のサビのリズム隊が生み出すグルーヴ感とボーカルに寄り添うリードギターの音色なんて圧巻だし、『The Mayor Of Simpleton』は正統派ギターポップ然とした音作りにも関わらず、AメロBメロサビとあまりにも目まぐるしく曲が展開していくので狐につままれたような感覚になるし、そんな中でひたすら暴れまくるベースがもう最高なんだぞ。
彼らの独特のセンスは、音楽的素養の少ない僕にとってもユニークさを感じ取れるものだが、しかしそれを言語化する能力が足りていないのがなんとももどかしい。まあそこに関しては百聞は一見に、ならぬ一聴にしかずといった感じだろうか。それを言ってはおしまいだが!
僕は実はXTCは『Black Sea』とこれしかまだ聞いてないんだが、他にも色々触れてみたくなる良アルバムだった。

荒野を歩け

荒野を歩け

Black Sea

Black Sea