日陰の小道

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『あさがおと加瀬さん。』感想 初恋の日々は世界全てがきらめいて見える

百合、流行してるよね、ってことでガチガチの女子高生同性恋愛モノっぽいこいつを見に行った。原作があるらしいのだけれどそちらは未履修で鑑賞に。


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あらすじ

緑化委員の仕事に熱心な女子高生の山田結衣。内気でおとなしいそんな彼女に、正反対のスポーティーでちょっと男勝りな加瀬友香という彼女ができた。初めて付き合いだした山田の日々はドキドキの連続。ちょっと不器用な彼女たちはしかし着実に近づいてゆき、ピュアな二人の高校生活が繰り広げられる。

作品紹介(ほぼネタバレなし)

とにかくめちゃくちゃ甘い。付き合いたてバカップルのバカップル日常を観測することになるので恥ずかしさすら覚えてしまうほどに清々しいほどバカップル。胃痛な空気は薄いのでそちら方面がフェチな方はズレが発生してしまうかもしれないが、逆に安心して見られる作品スタイルに仕上がっていると思う。
画面も色彩が美しく、また繊細に二人のドキドキ感を動き・表情・間を使ってたっぷり表現してくれる、丁寧に作られた恋愛映画であった。「女の子同士の恋愛」が好きならばおそらく間違えない作品なのでは?

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感想(ネタバレあり)












非現実味のある演出がおもしろく、妙なほど地面を軽快に飛び跳ねる水滴であったり、友香の制汗剤のレモングラスの香りは蛍のような輝きになってただの結衣の部屋を幻想的に演出したりする。この光景というのがそのまま結衣とそして友香の胸の高鳴りであり、世界をも変化させてしまうきらめきなのだと思う。
また印象的なのはとにかく光が目立つ。夕暮れのバス停での西日の現実離れした輝きは特に印象的だ。この強烈な光はラストのシーン、飛び込む結衣と受け止める友香、発射する新幹線のライトにてまた再び表現される。大学進学の進路にまつわる離別の予感から、どこかぎこちなくなってしまう二人だったが、東京へと追いかける決意をした結衣の想いが届いた瞬間、出発の電車はまた再びまばゆい光を放ち旅立ちを祝福するのだ。全編通して二人の想いがうまく表現された、良き映像作品だったと思う。一方で全体的にはコメディ調の軽いシーンが多く、気軽な空気であるのもバランス良い。

ストーリー展開はちょっとすれ違いつつもイチャラブを見せつけて、最終的に大学進学を控えても寄り添う二人の姿でエンド……とかなりシンプル。その分先述の演出により、巧みに浮遊感のある雰囲気と、そしてキャラクターの姿を存分に描ききっていた印象だ。
顔も端正でスポーティ、更に持ち前の明るさで人気者の友香。一見非の打ち所がないような彼女が結衣の前ではデレデレなのが面白い。その立ち位置から結衣をやきもきさせる側かな……と思わせつつ積極的に唇を奪いに行ったり、なんだったらベッドに押し倒したりとかなり強めのアプローチ。結衣がいない間にこっそりと布団に潜り込んでいたシーンでは映画館でも思わず笑ってしまう観客が多かった。いや男子高校生の性欲以上の思春期メンタルでは……。
一方の結衣はおっとり目立たない女子高生なのだが、故の自己評価の低さから来るような無自覚さに、思春期メンタルの友香はある意味振り回されっぱなしである。世間的には憧れの存在である友香が、逆に女子っぽい結衣の部屋にドキドキしたり、また緑化委員の仕事をする彼女をずーっと眺めていた、と逆転的な構図になるのが面白い。いや山田結衣は関係においてキス程度しか知らないというのにズバズバと相手のフェチを撃ち抜いてくる魔性の女だったよ。
付き合い始めたからと言って劇的に二人の関係が変わるわけでもなく、関係の名前だけを変化させた二人のそれはふわふわとして不安定。だからこそ小さなことからすれ違い「嫌いになった?」と不安になる。好きあっていながらもその距離感には慎重な描写がなされていた。一方であまり辛気臭くならずにその問題は比較的すぐに解消されていくので、視聴感は常に爽やか。ゆるりと楽しめるタイプの映画である。

素直にめっちゃいい映画だったと思う。思うのだがおれの趣味的な観点でいうとかなり乖離してもいた。
まず自分は馴れ初めばなしが好きなのだ。恋愛ノベルゲームでも告白成功した途端になんだかモチベーションが下がってしまうことが時々ある。他作品の言葉から引用すると「成就した恋ほど語るに値しないものはない」的なメンタルに近いかも知れない。なんだかイチャラブが苦手みたいな言い方になるが、ここはポジティブにその前が好きすぎるとさせていただきたい。
原作では結衣の育てるあさがおをきっかけとした出会いから告白の流れがあると聞いたが、映画だと付き合いだしたとこからというのが惜しいなあになってしまう。これに関してはあさがお要素がラストで急に花言葉として飛び出してきたことに、タイトル回収でありつつも脈絡の無さを感じてしまったのも残念だった。いや見落としていたなら本当に申し訳ないのだが、やはり恋愛ドラマの醍醐味を出会いと接近に大部分を感じてしまう人間なので惜しい。

もうひとつ思うのは、非常に雄弁な映像でありつつも二人の恋人関係というものに関する感情はあまりに明白すぎて、読み取りを試みる面白さがあまり感じられなかったところだ。そういう秘匿された感情は、両者の関係が曖昧であるほうがよく飛び出してくる、という意味では前述の不満点につながる話かもしれない。基本的に結衣視点で進んでいくのだが、対する加瀬さんサイドの好き好きオーラも凄まじいので特に視聴者側から考えることなにもないんだよな。そういうおれ観点では三河っちに付き合いの長い幼馴染ポジとして軽く嫉妬していてくれたりすると嬉しいなとか思いながら見ていた。いや完全に悪いオタクの趣味の話になるが。でも三河っちはいいやつだよ。

余談だが「女子高生二人と卒業にまつわるストーリー」でありつつも「二人を中心とした狭い世界を感じさせる」「部活などの共通点は存在しない」「現実的な世界観ながら描写が幻想的」「二人の感情は明白に表されている」「二人はこれからもずっと寄り添う」と特徴を挙げてみるとこの前見た『リズと青い鳥』とはストーリー的には近い要素を感じつつも真逆のスタイルで構築された作品だったなあと思う。リズ青の方を「おれにとっての理想の作品」と絶賛したような人間だから、今回微妙に合わなかったのは必然のようでもあり、逆に変にリズ青を引きずってしまったのでは疑惑もあり……。
いや何度も言うけど『あさがおと加瀬さん。』は実に丁寧な映画だったし、なかなかこのような恋愛ものも見ないしでおもしろかったのだよ。ただ自分にとっての趣味を再確認する映画だったな~という感想が大きく、しかしとはいえそれ含めておもしろい視聴体験であったと思う。やっぱり自分あまり百合好きではないのではという気がまたしてきたな?

あさがおと加瀬さん。 (ひらり、コミックス)

あさがおと加瀬さん。 (ひらり、コミックス)