日陰の小道

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『ペンギン・ハイウェイ』感想 少年の見る、世界とその果て

ばけーしょんに続いて夏に見たいこの映画を、わりと続けて見たんだけど感想がもう秋になってしまった……。

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penguin-highway.com

あらすじ

いずれ立派な大人になるべく、日々世界について学んでいる小学四年生のアオヤマ君
そんな彼が今興味津々なのは、通っている歯科医院の"お姉さん"だ。様々な疑問への研究を続けるアオヤマ君だったが、そんな彼のもとに不思議な出来事が飛び込んでくる。それは彼の住む街に突如としてペンギンがあらわれるという事件だった。

感想



アオヤマ少年のひと夏の思い出、そうした儚い体験を追体験するかのような綺麗な映画だった。
森見作品のアニメだと『四畳半神話大系』と『夜は短し恋せよ乙女』を見たことがあり、これらは大学生が主役でいい感じに退廃的かつ幻想的な感覚が魅力のアニメだった。それらに比べると本作は少年主人公ということもあってかなり瑞々しい感覚があり、また劇場の客層にも親子の姿がちらほら見られた。現役少年少女の夏休み向けの映画としても、それなりに認知されているようだ。


お話はそのペンギンやその周辺の謎を解いていく流れで展開してゆく。お姉さんがコーラの缶を投げるとペンギンに変化する秘密の発見。クラスメイトのウチダくんと共に水路を探るアマゾン・プロジェクト(アマゾンズっぽくて笑う)
そして同じくクラスメイトのハマモトさんが見つけた「海」という謎の球体。等身大の少年の好奇心と研究、それに伴って少しずつ秘密と共に世界が広がっていく感じが心地よい。


中にものを入れる巾着袋を裏返すと、世界が袋に入っているという風にも解釈できる。世界の広さの認識が人に依るとすると、その果ては一体どこにあるのだろうか。思いもよらず身近に存在した世界の果てである「海」は、本来球体ではなくこの世界に偶然開いてしまった穴であった。狭くもしかしそこに得体のしれなさと共に存在する世界の肌触りは、ちょうど少年の視点で見据える世界認識と重なるような気もする。それは大人から見ると時に滑稽であるかもしれないが、しかしそれを否定することはできない。この作品に登場する大人たちは、子供たちの意思や研究を尊重し、その努力に大きな理解を示していた。そんな大人たちの優しさが暖かい。


そして物語はペンギンと、そしてお姉さんの秘密に迫ってゆく。ペンギンを生み出し、住んだ町から離れると体調を崩し、食べ物を摂らなくても問題なく生きていけてしまうお姉さん。彼女が穴を修復するために生み出された存在で、人ではないことがいよいよわかった時に「私のこの幼い頃の記憶はなんなのだろう」とつぶやくお姉さんが物悲しい。お姉さんに関してはそこまで設定はついぞ明かされず、また彼女の感情というのはあくまでアオヤマ少年の視点を通じてのものが多かったので、正直あまり把握できなかったし、掴みどころがない人という印象で個人的には少年ほど大きな思い入れは生まれなかった。のだがしかし、セリフの節々に秘められた人と人でない中間の存在であるところの哀しみというのは胸に突き刺さった。少年が大きくなった姿を見ることができないのだよなあ。
そしてそうしたを陰鬱さを吹き飛ばすかのように、作品の山場でキービジュアルにもなっているペンギンの大量発生からの波乗り、これは最高に気持ちよかった。そこまで比較的静のアニメーションで構築された作品が、いきなり動に転換する快感。「海」に突入し到達した世界の外側の濃い青の空が美しく、知的好奇心から未知のものへの研究を続けていったアオヤマ少年の不可思議体験がこれ以上なく美しく表現されていた。


作品スタイルとしては、お姉さんが生み出された詳しい過程を含め世界設定だとかが気になる反面、そこはふわっとした捉え方に留まっていた印象はある。結局世界の外側ってなんなんだろう、みたいな(個人の教養不足なのはしかし正直否めないかもな)
個人的にはそこらへんのお話が結構気になったのである意味消化不良といえばそうなのだが、しかしあくまで「アオヤマ少年の物語」としての姿勢を貫くとしたら彼の世界認識に寄り添うのが作品として確かに正しい気もする。自分が中途半端に拗れた成人だったせいか、アオヤマ君のちょっとこそばゆくもしかし純粋なキャラクターに、思いの外寄り添えなかったのもあるかも。背伸び感と知識への純粋さのキラッキラに一歩引いてしまうダメな捻くれ者なのだ……。しかしこうして感想として要素を挙げていくと好きな話題だなあと改めて思うし、そしていいアニメ映画だったと思う。


「海」による破壊とそしてお姉さんは、町の人々の記憶だけを残して消えてしまった。しかしその記憶は、残ったペンギン号の玩具と共にアオヤマ少年をこれからも形作っていくのだろう。

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

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ペンギン・ハイウェイ アオヤマ君ノート

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