日陰の小道

土地 Tap:Green を加える。

話数単位で選ぶ、2020年TVアニメ10選

毎年の年末年始恒例。今年もわたしは以下のスタイルにて選出した。
年始に作品を見終わっていたのだが思いの外遅くなってしまった……が気にせず発表していくぜ。

  • 2020年1月1日~12月31日までに放送した作品。
  • 20本選出した上でランダムに視聴をし、改めて10本を選出。
  • 順番は”だいたい”放送順で、順位はつけない。

ARP Backstage Pass 第11話『Paradise』

脚本・構成:内田 明理、えんどうてつや 演出・絵コンテ:香味 豊 ライブ3D演出:陸川 励、平井 絵美 3Dキャラクター作画監督:浜崎 恵

仮想と現実がクロスする――AR技術を使用してキャラクターでありながらも生ライブを披露するコンテンツ「ARP」初のアニメ化作品。グループ名でもあるARPに所属するシンジ、レイジ、ダイヤ、レオン4人のキャストは伏せられており、”実際に”彼らが歌い、踊り、パフォーマンスを繰り広げる……というのが基本設定のコンテンツ。スタッフロールでは登場人物の「叶真嗣」を現実のタレントの「シンジ」が演じている、ということになっている。「Backstage Pass」というタイトルが追加された本作は、そんなARP4人のバックボーンを再現する、という設定のアニメ作品である。この11話は特別編という扱いであり、TVアニメ全10話放送後にBD特典及び配信にて公開されたが、後の再放送でTV放送もされている。
この作品、非常に楽しんだのだが不思議とその魅力を言語化することが難しい。アイドルモノとしてはオーソドックスなお話であり、各メンバーが自らのオリジナリティやパフォーマンスに悩み、また仲間であり同時に競争相手でもあるチームメンバーと切磋琢磨する、というストーリーだ。しかしこの作品は、単なるアニメではなく"再現アニメ"であるところにこそ大きな魅力がある。


ARP Backstage Pass』という作品は、①物語パート(フィクション)→②ステージ映像(現実のステージ)→③4人のコメント(現実の楽屋裏)という多層構造となっている。①の物語によってメンバーのここに至るまでの道筋を理解し、その上で②のステージは背景を知ることでより感動的に見えるようになる。これだけでも作品としては成り立っているのだが、エンディング後の③の談笑パートが入ってくることでここで更に深みを増す。③では”現実の彼ら”によって①と②が改めて振り返られ、アニメ映像が実際の"我々の生きる現実"においてどのような立ち位置なのか、ということが視聴者にも極めて自然に理解できるようになっている。この③こそがARPのメンバーがキャラクターであり、同時に彼ら自身がタレントであるからこそ実現できるパートなのである。この多層レイヤーによってこの作品はオーソドックスなアイドルアニメと現実の”再現ライブ”によって描ける「キャラクター描写」の一段回上を行き、登場人物を通常よりも更に多角的に描くことに成功している。このアニメが彼らの「Backstage」を覗くことで彼らのことをより知ってもらうための作品であるならば、その狙いは極めてハイレベルに実現できている、と言えるだろう。まさに「技」が光るアニメーションだ。


メタ的な試みの話をしてしまったが、この上で純粋に作品としての質も高い。前述のようにアイドルとしては王道のシナリオ展開は一つ一つがじんわりと感動できるものに仕上がっているし、楽屋裏でのコメンタリーも非常に微笑ましくつい笑顔になってしまう。そしてなんと言ってもステージ演出のキレには眼を見張るものがあり、楽曲のクオリティも相まって毎回胸を打たれること間違えなしである。
つい作品全体に関しての話をしてしまったが、11話に対する感想も結局同じことなのだ。どういうことかというと、このエピソードの選出理由は「あまりにもARPの4人が魅力的である」という点。ここまで個々の物語を展開していた彼ら4人のいよいよグループとしてのお話であり、その一挙一動が、彼らの培った絆が、今までの積み重ねも相まってたまらなく愛おしく映るエピソード。なかなか噛み合わなかった彼らのダンス特訓の様子を踏まえると、4人の綺麗に揃ったダンスパートの素晴らしさが何倍にも感動的に感じられてしまう。3Dアクションやカメラワークを駆使して、物語のクライマックスを受け止められるダンスパートをきっちり仕上げてきていることもなんとも素晴らしい。
4人がもっとも輝けるようなステージ、それこそが『Paradise』なのである。

ネコぱら 第10話『ニャがーん!鈴の更新試験』

脚本:土田霞 絵コンテ: 森野熊三 演出:球野たかひろ 総作画監督:三島千枝 作画監督:山本里織・坂本千代子・斉藤大輔・岩田芳美・沼田 広・村田憲秦・大竹晃裕・ラインファーム・佐藤哲也

アダルトゲーム原作、OVAにもなった『ネコぱら』シリーズのTVアニメ作品。見た目は人間に近く言葉も話せるが猫耳などの外的特徴や猫らしさを携えたちょっと不思議な「ネコ」という少女たちの繰り広げるドタバタコメディ作だ。パロディ満載のギャグや、ちょっとホロリと泣けるいい話など、少し懐かしの深夜アニメらしいおおらかさがなんとも嬉しい美少女アニメであった。


この10話では、ネコが一人前と認められる証「鈴」の更新試験にショコラが挑む。今年の流行語大賞にも輝いた*1『ニャがーん!』を冠したタイトルもインパクト大。このエピソードの面白さは『ネコぱら』世界におけるネコの社会的な立場がわかる回でもあるというところだろう。雰囲気的には運転免許証めいた「鈴」だが、その訓練内容は人間の子供が学ぶかのような一般常識が中心となっている。
さて、ここで実際に試験に挑むのはショコラだが、もう一人このエピソードにおいて影の主人公とでも言うべき存在、それがカカオである。捨てネコとして1話で拾われたカカオはショコラと比べてもまだ幼く、言葉も満足に話すことができなかった。そんなカカオだがこのエピソードでは知らず識らずのうちに成長している姿が描かれ、時にはショコラよりもしっかりしているような様子も見受けられる。


先程「人間の子供」を引き合いに出したが、まさにこのネコぱらで描かれているのは子供の成長であり、このエピソードはそんなカカオの姿になんとも心を打たれてしまう。基本ネコは水が苦手なのだが、少し怖がりつつもお風呂の湯船に浸かり、その様子を口々に褒められて頬を染めるカカオの姿はこのエピソード内でもベストシーンだろう。
カカオの物語としては次の11話『カカオの恩返し』がもっとも山場なのだが、今回はネコぱらのコメディの面白さがギュッと詰まったこのエピソードを選ぶことにした。ショコラの特訓に付き合って他のネコの面々も協力するのだが、「現場猫」のパロディを繰り出すアズキに、嬉々として変態不審者めいた姿をするシナモンなど、面白おかしいシーンが満載の、とても楽しいアニメに仕上がっている。


完全に余談だが、この話の脚本を担当した土田霞氏、本作『ネコぱら』で颯爽と登場してその後『Lapis Re:LiGHTs』(こちらもわたしは10本内に選んでいる)のシリーズ構成を連名で務める謎の人物。メディアミックスコンテンツの構成を請け負うぐらいなので何かしら実績がある人物なのではないかと勘ぐってしまうのだが、その正体は謎に包まれている……。

SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!! 第12話『Mashumairesh!!』

脚本:渡邊 大輔、田沢 大典 絵コンテ:孫 承希 演出:孫 承希 作画監督:白井 瑶子、大下 久馬、清水 海都、摺木 沙織、諏訪 真弘、松尾 亜希子、黒田 結花、小栗 寛子、谷 紫織 総作画監督:伊藤 晋之、齊田 博之

サンリオ初、キャラクターバンドコンテンツの『SHOW BY ROCK!!』シリーズ通算3作目、主人公チームを一新し全く新しい物語を展開した。対サウンドモンスターというバトル展開があり、世界の命運をかけたような壮大な前2作から一転、極めて小さいスケールの等身大のバンドストーリーを鋭く描いた作品である。


SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!』という物語は、『Mashumairesh!!』というバンドを組むことになる4人にとって、そのバンドが居場所となるまでのお話だったように思う。この最終話でもひょんなことから道に迷ってしまったほわんは知らない街に放り出されてしまうが、他3人の顔を思い浮かべ「よーし、やるぞー!」と奮起する。デルミンの放つ巨大レーザーを目印になんとか会場までたどり着いたほわんだったが、ここに至るまでもビームを発したデルミン、先んじて手続きを済ませてくれたルフユ、ほわんを起こしたヒメコ、と誰か1人でも欠けてしまえばたどり着けない場所であった。4人が『Mashumairesh!!』の決して欠かせないパズルのピースなのである。こうしたシナリオを力強く後押しするかのように、4人全員寝坊してしまったり、ステージ前に決めポーズとともに拳を付き合ってみたり……とそんな一つ一つのやりとりがなんとも微笑ましい。


わたしがこの最終回でもっとも好きなシーンは、ほわんがステージ前の意気込みを語るシーンだ。ここでほわんは今までの思い出をいくつも思い浮かべ、胸がいっぱいになりつつも、それをうまく言葉にすることはできない。だからこそ彼女は「歌で伝える!」と言うのである。そんな彼女たちの想いが存分に込められた最終回のライブシーンは涙なしに見ることができない。『SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!』はその演出のパワフルさによって「力」強く居場所を肯定してみせた、と言えるだろう。
このクライマックスで歌われた『プラットホーム』は別れの歌であるが、しかしそれと同時に「忘れない」そして「帰ってくる」と歌う歌なのである。4人にとってようやくたどり着いた居場所、そんなポジティブな最終回にこのような切なげな歌を起用する采配も驚きだが、それによって実際4人の「今」に対する愛情を、これでもかというぐらいにぶつけられるのだから凄まじい。
輝かしいライブの瞬間は終わり、楽しかった写真もいつかは思い出と変わっていくが、それでもなお、ずっと続いていく何かが感じられた。それはきっと祈りであり、予感のようなものである。

神之塔-Tower og God- 第13話『神之塔』

脚本:吉田 恵里香 絵コンテ:佐野 隆史 演出:佐野 隆史、むらた 雅彦 総作画監督:谷野 美穂、高須 美野子 作画監督:鈴木 美咲、林 智子、広中 千恵美、工藤 友靖、工藤 昌史

韓国ウェブトゥーン原作アニメ。頂上に登ったものは神にも等しい栄光が手に入るという『神之塔』に挑まんとする人々が描かれる。二転三転する展開が非常に刺激的な本作であるが、この最終回において、このアニメはその裏側を開示し、視聴者を驚かせた。


神之塔に至る挑戦は相手を蹴落とすシビアなものである――最初のデスゲームめいた試験に臨んだ時は視聴者も、恐らく作中の参加者の大半もそう思ったはずだが、しかしこの作品は思いの外、ある意味では温い協調性と共にここまでやってきた。お人好しな少年、夜の周囲には自然と人が集まり、彼の損得勘定を抜きにしたような姿勢は次第にライバルであるはずの人々の間に絆を育んできた。クライマックスの「鮮魚狩り」という試験は、全員の協力の下クリアを目指す試験であった。前2話でギリギリながらもチーム一丸となり、試験のクリア直前までなんとかこぎ着けた夜たち。夜の、仲間たちの、積み重ねてきた力がいよいよ今こそ肯定される時! 夜たちも、視聴者であるわたしも、そう思っていた。ただ1人、夜を突き落とした、夜にとってもっとも大切であり、塔を登る理由そのものであった、ラヘルという少女を除いては。


夜のここまでの道筋が光であったならば、ラヘルのそれは闇であった。この13話では今まで夜視点で進んできた塔への挑戦を、改めてラヘルの視点で描く。夜を捨て、自ら輝ける星たらんとするラヘルという少女の、嫉妬、苦悩、葛藤、そうしたものが凝縮されてぶつけられる。ラヘル演じるのは早見沙織だが、ここまでも迫真の演技で多くの印象的なアニメシーンを生み出してきた彼女の演技がここでも炸裂する。夜を捨てたはずのラヘルが、優しい彼を殺しても良いのかと悩み、しかし夜の類まれな天賦の才を目の当たりにし、自らの境遇との差に打ちのめされる。前話クライマックスでラヘルが夜を突き落とした時にわたしは「なぜ」とかなり驚いたのだが、ラヘル側の物語をここで改めて開示されるともはや必然しか感じられず、このアニメの手のひらの上ですっかり踊らされてしまった。
ほぼ新しい情報は提示されていないにも関わらず、言ってしまえば総集編めいた最終回ですらある。にもかかわらず、ラヘルの目を通すことでまったく違って見えるこれまでの道筋に圧倒される。


さてエピソードの最後、この物語は夜の元へと帰ってくる。ラヘルのために、ラヘルを追って塔を登った夜は、改めて最下層まで落ちてしまった。しかし彼は歩みを止めることはしない、何故ならば、彼にはラヘルの真意を確かめる必要があったからだ。だからこそ借り物の理由で歩んでいた彼はここにきていよいよ彼自身のために塔を登り始める。そんな夜に今改めて投げかけられる「ようこそ、神の塔へ」の言葉。改めて夜の視点に立ち返った時、この物語は夜が本当に神之塔へと挑むまでの序章であったのだ。構成の巧みさに、ただただ感服する。

白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE 第7話『山菜採り』

脚本:神保昌登 絵コンテ:藤木かほる 演出:木下ゆうき 総作画監督奥田陽介佐々木貴宏、香川松吉 作画監督:崎山知明、木下ゆうき、青野厚司、森出 剛

コロプラの人気アプリゲーム『白猫プロジェクト』のアニメ作品。白猫本編の前日譚である本作は、アプリ内の同名のストーリーをアニメ化したものということである。天空に存在する豊かな「白の王国」と、地上にある荒廃した「黒の王国」の両国は長年戦争を繰り広げており、そんな戦火の中で様々な思惑の元奔走する人々の姿を描いている。


この7話は主人公である黒の王国の「黒の王子」が特使として白の王国を訪れた後のエピソードとなる。長年のいがみ合いによって両国の断絶の根深さに直面する黒の王子だったが、一方で白の王国の女王、アイリスはかなりの穏健派であり、和平交渉は前向きに進歩していた。物々しい予告BGMと共に表示された『山菜採り』というあまりにも牧歌的なタイトルのギャップはわたしを含め視聴者の度肝を抜いたが、その名の通りこれは親睦を深めるために、ひたすら両国トップたちによる山菜採りの様子を描いた回なのである。


単体としても今までになかったぐらい平和的な内容で非常に楽しく見られる。水に濡れたアイリスが黒の王子を前に照れてしまう、などというベタなラブコメ展開なども挟まれ、1クール作品の小休止エピソードとしてはこれ以上ない出来。しかしこの回は全体の構成を見渡したときに改めてその優れた姿を把握することができる。
この次の話では穏健派の努力も虚しくセンセーショナルに戦いの火蓋が切って落とされてしまうわけなのだが、この言わば「平和な日常回」を一つ設置したことによって、明らかにその悲劇性が何倍にも膨れ上がって感じられるようになっている。更にこの話自体も単なる展開のギャップを生み出すためのものというだけではなく、黒の王国と白の王国、その両者に隔たるシビアな現実の差を浮き彫りにする回でもあった。日のなかなか届かない黒の王国では苦味が強い山菜は、白の王国の豊かな水や日光を浴びたそれは格段に食用として優れている。白の王国が当たり前のように自然の恩恵を受け取っているものは、黒の王国の民にとっては決して手の届かないものなのである。初見ではこのエピソードを極めて平和的な回だとわたしも認識していたのだが、改めて見返した時にその中で示されたあまりにも残酷な現実に衝撃を受けた。


黒の王国が何もかも劣っているわけではない。例えば塩は白の王国よりも黒の王国のほうがよく採れるそうだ。山菜の天ぷらに塩をかけたあのシーンは、なによりも両国のこれからの歩み寄りを感じさせてくれるものだっただけに、先の展開を踏まえるとより一層切なく映る。山菜を囲んだあの儚い食卓は、たとえ偽りであろうとも、確かな平和の希望を感じさせてくれていたのだった。

Lapis Re:LiGHTs #8『Instinct olquestra』

脚本:土田 霞、あさのハジメ 絵コンテ:長町 英樹 演出:石郷岡 範和 作画監督:池上 たろう、王 國年、嵩本 樹

「魔法×アイドル」というテーマで、ノベルやコミック、ゲームなどメディアミックス展開をする『ラピスリライツ』のアニメ作品。伝説的な魔女である姉を持ったウェールランド王女のティアラは、自身も魔女になるという夢を叶えるべくマームケステルの魔法学院の門を叩く。ひょんなことからおちこぼれグループの一員となったティアラは、しかしそれでも一生懸命に夢に向かって努力をし、仲間たちとの友情を育んでいくのであった。


コンテンツとしてはアイドルモノであるはずの本作なのだが、ティアラたちグループのオルケストラ(ライブステージ)のシーンは不思議と一向に登場せず、彼女たちがオルケストラに挑もうとする展開にもなかなかならなかった。契機は前話、ペナルティで退学目前となったティアラたちグループは、起死回生の一手としてオルケストラへの挑戦を決意する。オルケストラ実施のため学園長のクロエの元へ直談判へ向うティアラだったが、そこでクロエや姉・エリザが参加していた伝説的ユニット『Ray』の話を聞くこととなった。
この『Lapis Re:LiGHTs』という作品は情報の開示と主人公の目線を重ねることを徹底しており、ティアラが一歩踏み出したこの回で初めて本格的に『Ray』のエピソードが語られる。なんとなく憧れたオルケストラという舞台が、憧れの姉・エリザの姿が具体的に語られることによって、よりティアラの魔女への憧れと強く結びついていく。ティアラたちの初めてのオルケストラに向けて、今まで関わってきた他ユニットも次々に協力者として加わり、今までの積み重ねを感じさせる。ティアラたちがつないだユニットを超えた絆は、改めて彼女たちの助けとなるのだ。


オルケストラ挑戦に伴い、いよいよティアラたちのチームに名前をつけることになる。綺羅びやかな街の灯をバックに想いを語るティアラのシーンは非常に美しく仕上がっており、アニメの中でもトップクラスの名シーンのひとつだ。「いつか私も、こんな風に街を……人を照らす、光になれたらって!」そう語るティアラの姿勢はどこまでも優しく、人々に寄り添う。今までユニットとしての”色”を持たなかった彼女たちは、しかしまっさらな白色だからこそ分かれてどんな色にでもなることができる。故に同じ光だとしても、単数の『Ray』ではなく、ティアラたちは複数の『LiGHTs』なのだ。
作中にて初めて披露されたLiGHTsとしての楽曲『700,000,000,000,000,000,000,000の空へ』も素晴らしい。インパクトもさることながら、夜空の星々全てを歌ったスケールの大きさは、LiGHTsというユニットのありとあらゆる可能性を指し示すような、そんな希望に満ちあふれていた。


しかしここからがLapis Re:LiGHTsというアニメの一筋縄ではいかないところかもしれない。見事にオルケストラを成功させたかのようなLiGHTsだったが、パフォーマンスで街を飛び回ったことで「計測範囲外の魔力が測定されていた」ということで、結果は失敗。本当に退学となってしまうのだった。この世界の現実は常にシビアで、”魔法”のように全てを解決してくれはしない。希望を描きつつも同時に厳しさを常に提示していくのが、このアニメのスタイルなのである。しかし、だからこそ、何度も壁にぶつかりながらも前へ進むことをやめないLiGHTsの姿は、何よりも輝いて見えるのだった。

体操ザムライ 第6話『親子ザムライ』

脚本:村越 繫 絵コンテ:松田 清 演出:後藤康徳 総作画監督:崔ふみひで 作画監督:本田みゆき、𠮷田正幸、藤田亜耶乃、小野田貴之、松岡秀明、冨永拓生、村長由紀、柴田志朗

2002年の日本。かつて「サムライ」と讃えられた体操選手・荒垣城太郎の再起と、娘の玲を始めとした彼を支える周囲の人々の姿を描くオリジナルアニメーション。11話という1クールアニメとしても短い話数の中で、緻密な構成によって見事な"着地"を遂げた作品だ。


中盤である6話は城太郎の娘・玲に特にスポットライトが当たったエピソード。玲は毎年の誕生日を父と一緒に祝うことをとても楽しみにしていたのだが、玲の誕生日と日程が被ってしまった日中合同合宿を控えた城太郎は、悩みながらも娘に合宿の参加を頼み込む。小学生という幼さながらも聞き分けもよく献身的な玲は、それを笑顔で承諾するのだが、しかし「父のよき理解者であろう」と常に懸命な努力をし続けている玲の心は密かに傷ついていく。
この作品は謎のニンジャ・レオの存在や、謎の鳥・ビッグバードなどのおふざけめいた珍妙な設定もかなり存在するのだが、その一方で繊細な心の機微を描き出すのも非常に上手い。「なんだか面白くない」というような微妙な気分の玲は、「1人だからと片付けを放棄する」とか「机のカドに小指をぶつけてしまう」だとか、そうした地に足のついた描写で見事に表現されており、繊細さが光る回でもあった。


そんな玲だったが、片付けを怠ったことによってビッグバードがフライドチキンを口にしてしまい(本当にこれだけ抜き出すとトンチキな展開だ)倒れてしまって慌てふためく。城太郎も祖母も電話に出ることができずに、独りである玲はビッグバードを連れて動物病院へと辿り着くも、なんとなく家に帰る気がしない。すると今度は帰宅した城太郎が慌てふためき玲を探すことになる。ちなみにここで再び電話というアイテムが巧みに使われていたり、冒頭のカラーギャングが登場するのも構成が上手い。


玲と再開してからのシーンも非常に素晴らしく、城太郎の「うろうろ……うろうろダメだ、危ない、ほんと危ない……」はあまりにも狼狽する人間の表現として優れたセリフだし、いつのまにやら行方知れずだったレオが再登場していて場を和ませるのも良い。
しかし何よりも凄いのはなんといっても玲の「私本当は自転車乗れないんだよ!」という涙ながらの告白。今までのシーンでもずっと玲は自転車を引いていたというのに、城太郎だけでなく、多くの私を含めた視聴者にとっても気が付かないであろうことが前提に作られていたのではないか、と思う。この時ばかりは本当に、城太郎ともども頭を殴られたかのような衝撃を感じた。お話の構成が上手い、というところからもう1段階上位の、視聴者の目線すらも完全に理解した構成の緻密さと言えるのではないだろうか。
ラストシーン、自転車の練習をする玲は案外すんなり乗れるようになってしまう、というオチも良い。何事も踏み出すことが一番大変だったりする。そういう人間の繊細な心に対して真摯な作品であった。

ご注文はうさぎですか?BLOOM 第6羽『うさぎの団体さんも歓迎です』

脚本:井上美緒 絵コンテ:望月智充 演出:山本陽介 作画監督:森悦史、平馬浩司 総作画監督伊藤雅子、渋谷秀
まんがタイムきららMAX』連載中の原作による人気アニメシリーズ『ご注文はうさぎですか?』の第3期TVシリーズ。2期の放送から劇場版、OVAと繋ぎつつも準備期間を大幅にとった本作は、画面やシナリオ構成など多くの部分で大きくブラッシュアップされており、非常に洗練されたアニメ作品に仕上がっている。


この6羽は原作5巻と6巻から一つずつエピソードをピックアップして構成されている。前半のチマメ隊の散髪と後半のラビットハウスパン祭りはそれぞれ直接の接点はないが、巧みな構成によってひとつのエピソードとして綺麗にまとまっている。ここで軸になるのはチノの変化であり、中学卒業を控えてチノたちがそれぞれがちょっとした”変化”を楽しんでみる前半と、お店でのチノがより周囲に気遣いができるようになっているという"変化"の繋がりがある。
特に後半が素晴らしく、ラビットハウスのパンまつりに合わせて飲みやすいコーヒーをブレンドするチノ、を描くに当たって「コーヒーが苦手な周囲の人々」という存在をアニメオリジナルのシーンで膨らませているのが上手い。タイトルにもなっている”うさぎ”という要素によって変化を示すラストシーンは夕暮れの情景が非常に美しく描かれており、アニメーションという媒体でコミックから更に進化したドラマチックな仕上がりになっていると感じる。
3期ごちうさの範囲では、中学卒業後の高校の進路・死者を弔うハロウィン・ラビットハウス2年目のクリスマス、とチノの世界が更に広がっていく流れが描かれていくのだが、そんな中でチノ自身の変化を繊細な筆致で描いた名エピソードであると言えるだろう。


さて、こうしてチノの”変化”を描きつつも、しかしその裏ではココアを軸として”変わらないもの”を並行して描いている。「姉のように立派になりたい」と願いつつもなかなかうまくいかないココアに対して、チノは「いつもの髪型も素敵」とありのままの姿を肯定する。一方後半ではココアの側から「チノちゃんのコーヒーはいつもおいしい」と、チノの不器用ながらも元からあった優しさを見抜いて褒め称えている。
ごちうさという作品は「変わるもの」と「変わらないもの」によって紡がれていく少女たちの穏やかな日々や世界を丁寧に丁寧に描いてきた物語であり、そんな作品の持つテーマを見事にまとめあげた1羽である。

アサルトリリィ BOUQUET 第8話『ツバキ』

脚本:佐伯昭志 絵コンテ:村山公輔 演出:宮本幸裕 総作画監督:潮月一也、崎本さゆり 総作画監督協力:高野晃久 作画監督:綾部美穂、松崎嘉克、和田賢人、河島久美子、宮井加奈、たかおかきいち 作画監督協力:清水勝祐

ドールのシリーズとしてスタートしつつ、舞台や小説など様々なメディアミックス展開を繰り広げる『アサルトリリィ』のTVアニメ。謎の巨大生物”ヒュージ”と戦う"リリィ"と呼ばれる少女たちの百合ヶ丘女学院での交流と戦いの日々を描く。


『アサルトリリィ BOUQUET』という作品は何度も何度もモチーフや展開を反復して組み立てられた非常に緻密な作品で、全12話のエピソードが出揃って初めて少しずつ作品自体の輪郭がわかってくる、そんなアニメだったように思う。
だからこそ、そこから1話をピックアップすることにはなかなか悩んだのだが、逆にどこをチョイスしたとしてもそこには作品の本質がしっかりと存在するだろう……と少々自分が趣味に走った選出をしたことを、あらかじめ謝罪しておきたい。この8話はアサルトリリィのアニメの中でも比較的平和な回で、リリィたちの学園での体育祭の様子が描かれている。全てを見た方はなんとなくわかるかもしれないが、わたしは1話見返すとしたらこの体育祭での一柳結梨の姿を見たいという強い気持ちがあった。趣味に走った自覚のある選出だったが、実際に改めて見てみると、「どこを抜き出しても遜色ないだろう」というわたしの考えは間違っていなかったと思う。


コミカルに描かれるリリィたちの運動会だが、しかしハードな世界設定から逸脱しているわけではない。人間離れしたリリィたちの身体能力は、外部からの”驚異に対する監視”を同時に呼び、このヒュージと戦う最前線たる百合ヶ丘女学院も人間たちの政治とは無縁ではないことが示される。リリィというのはヒュージと戦う人類側の切り札であるが、同時にヒュージと戦えない人々にとってはある意味ヒュージ後の驚異であり、恐怖の対象でもあるのだ。
しかしだからこそ、百合ヶ丘女学院の生徒たちは、理想を体現するかのように誰よりも気高くあろうとする。箸休め的なこのエピソードであるが、全体の物語の構成から見ても全く無駄がない。


人工ヒュージ VS 結梨のバトルシーンは極めて迫力があり、結梨のポテンシャルの高さを存分に感じさせるような一対一でヒュージを圧倒する”人間離れした”アクションには目を奪われる。もちろんハイテンポ・ハイテンションでぐいぐい進んでいく運動会は純粋にゴキゲンで楽しいアニメーションに仕上がっている。リリィの対ヒュージとしての戦士としての一面と生徒の少女としての一面、その両面が垣間見える、つかの間の休息であった。

魔王城でおやすみ 第12夜『魔王城の眠り姫』

脚本:中村能子 / 絵コンテ:山﨑みつえ / 演出:山﨑みつえ、野呂純恵 作画監督中島千明、松下郁子、瀧原美樹、鈴木彩乃、久保茉莉子、江口麻里、板倉健、立口徳孝、中田亜希子、徳永さやか 総作画監督:菊池愛、海保仁美

週刊少年サンデー』連載作品のアニメ化。魔王城で囚われの身となるスヤリス姫が、たくましく睡眠の改善のために奔走し、そんな気ままな姫に振り回される魔物たちとの交流を描く。


上述の通りこの作品の根底にはJRPG、中でも有名であるドラゴンクエストシリーズへのパロディがあると思われる。魔族にさらわれた囚われの姫は勇者の助けを待つ……というのがJRPG王道の構図なのだが、ここで姫は魔王城でありながらも魔物以上に生活を満喫し、自由気ままに暮らしている。更にこの作品では勇者は熱血と天然のあまり姫とはあまりウマが合わない人物であり、そうしたベース設定からのギャップをギャグへとつなげているのである。登場する姫も魔物たちも可愛らしく、ほのぼのとした空気が持ち味の作品であった。


さて、大本の設定からして王道JRPG世界のメタめいている作品なのだが、そこから更に一歩進んでこのアニメは「登場人物の記号化」を否定している。悪しき魔物たちはなんだかんだで善良ないい人(?)たちであるし、スヤリス姫にも悲劇のヒロインたる要素があまりにも感じられない。”倒すべき敵”・”助けるべき姫”という単純なものではなく、一人ひとりが個々の存在なのである。
そしてそれはJRPGの設定を踏まえずとも、スヤリス姫が一国の姫故に姫としてしか扱われないということにも繋がってくる。この最終回では姫の幼少期のエピソードが語られるのだが、それこそスヤリス姫が『オーロラ・栖夜・リース・カイミーン』という1人の人間であるということではないだろうか。そしてそれと同時に魔と人間との種族間の争いも、悪と善という二項的なものではない。何故ならば魔物たちはあんなにもお人好しなのだから。


人間側からすると”姫”でしかないスヤリス姫は、魔物のさっきゅんを影武者として矢面に立たせつつも”人間の姫”としての演説を行う。しかしこれは魔物たちにとって、そして今まで魔物と姫の交流を見守ってきた視聴者にとっては、寧ろ魔物たちに対しての愛情を語ったものというのは明白であった。真実とは身分や立場に寄るものではなく、一つ一つの行動によって生まれるものである。演説が終わった後姫は自ら仮面を被って”魔王”を名乗り、”姫”を強奪して魔王城へと帰還する。この時初めてスヤリス姫は姫としてのロールプレイを本当に捨て、自らの意思で居るべき場所を選択したのであった。
女王たる姫の母は、影武者ではなく魔王こそが本当のスヤリス姫であると気づいているのも非常に良かった。徹底して作品に流れる雰囲気は暖かく、種族や立場を超えた”愛”を感じる作品であった。設定からコメディを導き出すだけではなく、そこに真摯に向き合って感動的なテーマを導いた素晴らしき最終回と言えるだろう。

惜しくも選外となってしまった残り候補10本

恋する小惑星 第4話『わくわく!夏合宿!』
地学部の中の天文班と地質班、2つの視点をAとBで対比させてみる美しいエピソード。夢を追うモンロー先輩や、新たに夢を見つけるイノ先輩の前向きな姿に心打たれる。


宝石商リチャード氏の謎鑑定 第10話『導きのラピスラズリ
イギリスへと去るリチャードとそれを追う正義、2人のお人好しは各々の考えを衝突させつつも心を通わせる、山場のエピソード。宝石交換のシーンが非常に感動的。


乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 第11話『破滅の時が訪れてしまった…後編』
昏睡するカタリナは転生前、日本でオタク女子高生をやっていた日々へと回帰する。旧友「あっちゃん」との改めての別れのシーンはあまりにも切ない。


プリンセスコネクト! Re:Dive 第4話『ようこそ美食殿〜宵のとばりにビーフシチュー〜』
ギルドハウスを改装する美食殿の面々。ゲームでは描かれなかった地に足ついた生活描写が嬉しい。食卓を囲むエンディングの暖かさも普段以上に感じられる。


かくしごと 第12号『ひめごと』
いよいよ現代での父・可久士と娘・姫境遇が描かれる。漫画家・久米田康治の漫画に対する愛情を非常に感じてしまう。


邪神ちゃんドロップキック' 第10話
魔界に帰ることができると知って、不思議と揺れる邪神ちゃんだったが……? Aで話を終わらせてBを普段どおりのダラッとしたエピソードで締めるのが嬉しい。


放課後ていぼう日誌 れぽーと6『アジゴ
何度か釣りを経験して少々天狗な陽渚だったが、なかなかうまく行かずに改めて初心者である自覚をし、ますます釣りの世界にのめり込んで行く。釣りの楽しさを語る夏海の夕暮れのシーンが良い。


NOBLESSE-ノブレス-Episode09『血の契約/Devote』
ライに仕えるフランケンの過去。二人の心の繋がりを紅茶というアイテムを使い、血の契約を交わすシーンとして描く。役割ではなく個々の存在を見つめる手付きが素晴らしいエピソード。


いわかける!-Sport Climbing Girls- #9『クライミングプリンセス』
スランプに陥る隼。なかなか”壁”を登ることができない彼女だったが、かつての純粋な子供時代の喜びを思い出し、再び力を取り戻す。憎まれ口をたたきつつも土壇場で発破をかけてしまう茜の行動がにくい。


ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN 第2話『結成ストライクウィッチーズ
シリーズ第3期、芳佳1人で巨大なネウロイと戦っていたところ、501のかつての仲間たちが次々と救援にかけつける。501再結成のシーンがあまりにも嬉しい。

さいごに

ちなみに作品単位で10選するとしたら以下の通り。

  • ARP Backstage Pass(冬)
  • ネコぱら(冬)
  • SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!(冬)
  • 神之塔-Tower og God-(春)
  • プリンセスコネクト! Re:Dive(春)
  • 放課後ていぼう日誌(夏)
  • Lapis Re:LiGHTs(夏)
  • ご注文はうさぎですか?BLOOM(秋)
  • NOBLESSE-ノブレス-(秋)
  • 体操ザムライ(秋)

もちろんこの他にも数々の素晴らしいアニメ・心に残るアニメが存在した。
今年公開の劇場アニメは時勢の関係もあり、あまり映画館には足を運べなかったのだが『劇場版 ハイスクール・フリート『羅小黒戦記』2作とも非常に素晴らしい作品だったのも嬉しい。
もう既に2021年のアニメも始まっているが、今期も目を離せない作品がいくつもあり、引き続きアニメに熱を上げることになりそうである。

*1:※個人調べ