日陰の小道

土地 Tap:Green を加える。

2021/03/07 ~現実と虚構の間で~ 8beatStory♪ 2_wEi Special LIVE This is a “TRILL STORY”. 夜公演 感想

2_wEiとしても、わたし個人としても、実に一年ぶりのリアルライブだった。
Keep it Trill


セットリスト

Prologue -F**K YOU ALL-
Start the War
Heroic
Inheaven
Pendulum
MIЯROR
Numb
REGALIA
Heart 2 Heart
UNPLUG
Be alive
Pain-pain
Keep it Trill

fiction

感想

1年ぶりのリアルライブ

コロナウイルスの流行でありとあらゆるライブが無くなって、本当に久々のライブイベントだった。わたしはリアルイベントとしては先月にもひとつ参加したものがあったのだが、ライブがメインとなるとそれこそ去年のCLUB CITTA'での2_wEi 2nd Final以来となる。去年の2020年2月22日も今思うと本当にギリギリのタイミングで、今回もだんだんとリアルイベントの開催が出てきているとはいえ判断が難しい状況だっただろう。いち観客としてそうした判断の是非を問う立場でないということは重々承知した上で、あの時、そしてまた再びわたしたちの前に2_wEiの曲を届けてくれたことに感謝したい。


オンラインライブというのはちょくちょくあったのだが、やはりリアルとなると”情報量”が違うな、と思った。無論この目でステージ上の演者を直接見られるのもそうだが、舞台を劇的に照らすライトやレーザー、巨大なスピーカーから伝わってくる音、そしてそれに伴い響いてくる振動、人間が押し詰められた会場の熱気……そうした体験としてのセンセーショナルさは家で画面を見るものとは比べ物にならなかった。
会場の照明がふっと落とされて、『prologue -F**K YOU ALL-』と共に衣装に身を包んだお二人が登場した時の高揚感で、一瞬で”ライブの感覚”とでも言うべきものが蘇り、同時にかつてあんなに当たり前だったことがこの1年本当に存在しなかったんだなと改めて痛感した。そんな苦しい時勢に対して改めて戦線布告するかのような、同時に前回ラストの続きと言わんばかりの『Start the War』には、本当に痺れた。『Inheaven』で痛くなるほど腕を振り上げた。『MIЯROR』の二人の対象的なダンスをステージ全体を眺め味わえることに感謝した。『REGALIA』で微動だにできずにただただ歌声に聞き惚れた。『Heart 2 Heart』で涙した。『UNPLUG』で飛び跳ねた。声こそ出せずに席固定だったが、はっきり言ってそんなことは些細な問題だった。1年ぶりのライブで興奮しすぎて、衝動に身を委ねていたらあまり細かいことは覚えていられなかった。


全体的に2ndからの披露が多かったが、1stシングルの新曲となる『Keep it Trill』はここで初披露。野村さんの「Keep it Trill…」のタイトルコールの発音がめちゃくちゃ良くてそれだけでテンションが上がる。これだよこれ。2_wEiらしい攻撃的なサウンドに疾走感あふれるナンバーだが、ライブで聞くとCDで聞く何倍もカッコよくて驚く。本来コール箇所のような「Hello」だったりラップパートだったりと4分弱の中にこれでもかというほどライブの楽しさが詰め込まれていた。
様々な動作を封じられたわたしたちにできることは腕を振り上げたりすることだけだが、この動作一つによって生まれる熱量こそに真実があるような気さえした。

フィクション VS リアル

『8 Beat Story♪』というコンテンツのライブとしては"8beatStory♪ B.A.C 1st Online LIVE 「On Your Mark.」"に続くイベントだった本公演。方やオンラインライブ、方やソーシャルディスタンスを意識してのリアルライブ……と今の時勢を考慮しつつも別々のアプローチでのイベントだったが、この両者は単純に観客に対して「別々の楽しみ方ができますよ」と間口を広げるだけにはけして留まらない。


オンラインでの配信となったB.A.C側は「完璧な世界」を目指すユニット。発声ができず、席もまばらでしか現状行うことができない現状のリアルライブを「不完全」と称し、現在の状況に突きつけられてしまった興行形態の脆さを説きつつ、「そんなもので満足できるのか?」と問いかけてくる。その上で彼女たちのライブはオンラインライブとしての強みとして、客入りを前提としていないステージづくりや、さながらPVであるかのような凝ったカメラワークによってけしてリアルライブではできない映像的な魅力を実現し、これこそが「完璧な音楽」であると示していた。
画面でのライブであるからこそ、観客側に”1対1”の錯覚が生まれることを利用してこちらに語りかけ、そして画面の向こうで鮮烈なパフォーマンスを魅せる。会場の熱気や肉体的な質感が損なわれているはずのオンラインライブで、本来ずっと遠く離れているはずであるネットワークを介して、ある意味リアル以上に観客に”接近”してみせた手法に驚いた。そこにあったのは生の流動的なステージではなく、冷たく研ぎ澄まされたような「完璧」さを体現するステージであった。


それにしてもコンテンツとしては当然次にリアルライブを控えた上でリアル側をこれでもかというほど「挑発」してくることにも驚いてしまう。B.A.Cがライブで初登場したのは昨年の2_wEiの2nd Finalのステージであり、その時も2_wEiとは相反する価値観を打ち出す挑発的な構成となっていた。そう、これはプロレスめいた盤外での攻防なのである。当然これを受けた2_wEi側もリアル側として反発してくるのではないか……と始まる前から大変期待していた。


期待通り2_wEi側からもB.A.Cに対してアンサーを突きつけてくる。「お前たちはここにいるんだろう」「画面の中には真実がない」と野村さん扮する虎牙アルミは、わたしたち観客の本当の”目の前” で呼びかける。森下さん扮する虎牙ミントは「声が出せないなら、手を叩けばいい、腕を振り上げればいい」と話す。たとえ不完全だとしても無意味なわけではない、ストーリー上でドラマを乗り越えてきた2_wEiの掴んだ答えだからこそ、そしてキャスト陣のリアルステージでの熱演を浴びてこそ生まれる、迫真さに溢れた説得力がそこにはあった。そしてそのリアルでしか生み出し得ない魅力を、会場で感じる自身の鼓動の激しさでなによりも感じた。


あくまで”2次元コンテンツのライブ”である2_wEiのライブ。”現実と虚構の間”のような奇妙なステージで語られる”現実”の話は、下手すると全てが上滑りしてしまいそうな危うさも感じるが、しかしそうならない。徹底して2_wEiというユニットのライブの形式を、リアルにフィクションを顕現させるかのようなイベントに仕立て上げてきたコンテンツの道筋が、ここに確かな重量を生み出している気がするな、と短い間しか2_wEiのステージを見ていない身だが、そう思った。


B.A.Cの宣戦布告に対して真っ向から応じた2_wEi。「いやーこれからの展開も楽しみだ!」ということで気持ちよく終わったライブ……だったのだがもう一つだけまだ語るべきことが残っている。

Fiction

2_wEiの二人が去った後に、おもむろに聞き覚えのある音声が流れてくる。こんなタイミングでこんな風に話してくるのは1人しかいない。2_wEiの生みの親であり、ストーリー上ではすでにこの世の人ではない虎牙優衣その人である。発声禁止のイベントということで沈黙を保っていた観客からも、思わず声にならないようなどよめきが生まれていた。
優しげな彼女の語りと共に、ステージ上には真っ白いスクリーンが運ばれてくる。おそらく会場にいるほとんどの人がなんとなく今から起こることを理解して、覚悟を決めたかのような張り詰めた空気が漂っていた。今までの音楽とは一転した静かなピアノの音声が流れ出し、スクリーンに映像が映し出される。あくまでライブではない『Fiction』の披露だ。
今までの熱気に溢れた会場から一転、観客席からの嗚咽は止まらず漏れ続けている。とんでもないアンコールが始まってしまった。


帰らぬ人となってしまった優衣をまさかのボーカルの3人目に据えた、ロックユニット・2_wEiの楽曲ではない架空の曲。発表された時はこんな形で”キャラソン”を出してもいいんだ、と驚いた。実のところ、『Fiction』を聞くのはわたしもCDは購入しつつもライブでのこれが二度目だった(なぜかと言うと聞くと泣いてしまうので……多分まだ累計3回ぐらいしか聞いてないです)
永遠に失われてしまった「幸せな日々」のことを歌いながらも、それを「フィクション」であるとする優しくて残酷な歌。一緒に流れる映像がまた破壊力がすごくて、食べ物をほうばって屈託のない満面の笑みを見せるアルミだとか、快活で無邪気な笑顔を見せるミントだとか、そして元気そうな健在の優衣の姿だとかには流石に参ってしまう。これ本当にこれだけ見るとめちゃくちゃかわいい萌え萌え画像だから本当にひどい。そこには絶望を背負った王たるアルミも、それに寄り添う蠱惑的なミントもいない。いやたしかにストーリー上では二人共ライブシーンとは違う姿だったりするのはわかってるけどさ。
この時のビジュアルは、アナザージャケットとして会場でのCD特典に付属している。


曲中、Cのセリフと共に、玄関先でスクリーン上の優衣の姿は消えてしまう。あくまで嘘は嘘、夢は夢。終わってしまえばわたしたちは厳しい現実に放り出されてしまう。何故ならば”画面の中に真実はない”のだから。
それでも、優衣は2_wEiの二人、アルミとミントに対して「たまには幸せな夢を見て、休んでいいんだよ」と優しく語りかけていた。この「優しい嘘」こそがフィクションの持つ優しさの形であり、救いではないのかなとわたしは思っている。2_wEiのライブは現実と虚構の間にあるからこそ、現実を語り、同時に虚構を語るのだ。これを真面目に語るのを許されるポジションのコンテンツのそうそういないよ、エヴァンゲリオンぐらいじゃない?


感染症という未曾有の危機に対して、コンテンツとしては恐らく極めて甚大な被害を受けつつも「転んではただでは起きない」とでも言わんばかりの「この状態で何がやれるのか」を突き詰めた、現状を見事に逆手に取ったライブだった。
なにより、わたしたちの現実にこうして寄り添ってくれることが、今は有り難く、そして小さくとも確かな心の支えになっていることを感じている。


『歌い続ける』その中で表現される『真実の物語』を改めて見出したような、素晴らしい2_wEiのステージであった。

Keep it Trill

Keep it Trill

  • アーティスト:2_wEi
  • 発売日: 2021/02/17
  • メディア: CD
fiction

fiction

  • 発売日: 2021/02/17
  • メディア: MP3 ダウンロード