日陰の小道

私のロジックは私みたいな話をしたりします

アニメ『BLUE REFLECTION RAY / 澪』における、ロックバンド・The Smiths要素の解説と考察②(第4話~第6話)

The Smiths(以下、スミス)『BLUE REFLECTION RAY / 澪』(以下、ブルリフ)の並行語り、今回もやっていきます!

前回までの記事
cemetrygates1919.hatenablog.com


アニメ本編も順調に盛り上がりを見せていますが、わたしも毎週のサブタイトルを見て別方面で更に盛り上がっていたりします。ブルリフは2クールの作品らしいですが(2021年においてこれは最も素晴らしいニュースです!)ぜひ最後までこのサブタイトルで駆け抜けて行ってくれると個人的に嬉しいな、なんて考えています。

第4話 ないものねだり

タイトルは『I Want The One I Can't Have』でしょうか。
直訳すると「手にできないものが欲しい」という感じですね。


2ndアルバムの『Meat Is Murder』に収録されています。

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歌詞の中の「ないもの」とは何でしょうか。直接的には語られませんが、主に歌詞の中では幼い存在や、その成長について語られます。もしかすると欲しいものは「若さ」かもしれませんね。

On the day that your mentality
Decides to try to catch up with your biology

(I Want The One I Can't Have / The Smiths

「精神が肉体に追いつく」ことにはすなわち肉体に比べて精神が未成熟な状態、つまり10代ぐらいのの子どもを連想させます。もっとはっきり言ってしまうと、そこにあるのは危うい”未熟な性”の香りでしょうか。

A double bed
And a stalwart lover for sure
These are the riches of the poor

(I Want The One I Can't Have / The Smiths

ダブルベッドと熱烈な恋人、それこそが貧乏人にとっての贅沢。未成熟な子どもへと語りかける、狂おしいほどに”若さ”を欲しがる主人公。以上のことからこの歌の主人公は未成熟な子どもを性行為へと誘う危険な存在であることを思わせます。
ところで、ブルリフ4話にも出てきましたね、ダブルベッド。いや、他意はありませんが……。

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紫乃という違う少女と姉妹関係を築いている、陽桜莉の姉の美弦。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第4話より


楽曲は最後に「裏路地まで来てほしい、わたしもあなたと同じ顔をしているから……」というような誘い文句で幕を閉じます。ここの歌詞の中で「わたし」から「あなた」へと向けられているのは「肉体に追いつく精神の変化」に対する共感であることから、二人が同性であることを感じさせます。精神の変化、というのも性の目覚めというか、性的指向みたいなものを暗に指しているのかも知れません。
作詞・ボーカルのモリッシーバイセクシャル、もしくはホモセクシャル*1ということで有名ですから、この曲が同性愛をテーマにしているというのは無理のない解釈であると思われます。

And if you ever need self-validation
Just meet me in the alley by the
Railway station
It's all over my face
Oh ...

(I Want The One I Can't Have / The Smiths


さて、アニメのエピソードとしても他人と「共感」すること、いえ、それを超えて「一体化する」とでもいうことの是非が軸となったエピソードでした。
晴れてリフレクターのバディとなった陽桜莉と瑠夏ではありますが、なかなか息が合いません。そこで二人は互いの考え方や好きなものをもっとよく知って歩み寄ろう、ということを試みます。知れば知るほど二人はそれぞれの違いを実感しますが、陽桜莉はそんな「全然一致しない」ということを嬉しそうに歓迎します。息を合わせることが目的ではありますが、この二人においては「違う」ことは愛すべきこととして迎えられていきます。

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日々の生活でも全くスタイルが異なる二人。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第4話より


一方で今回登場する名バディとされるテニス部のペアの江間と由真ですが、過去のとある経験から弱気な由真が過度に相手に合わせようとしてしまい、そこから関係がぎくしゃくしてしまいます。今回はそんな由真の想い(フラグメント)を守る戦いでした。
ここで陽桜莉と瑠夏のコンビは「違うからこそ戦える」と互いの長所を生かした近距離戦と遠距離サポートという分業によって、見事敵リフレクターコンビを退けます。更に二人と共闘する百も、剣という共通する武器を捨て素手で戦います。最終的に三人の使う武器は、剣・弓・素手、とばらばらになりました。ここで「相手に合わせる」ことは否定され、「違うからこそ良い」と多様性を認める形で陽桜莉たちは勝利したと言えるでしょう。
第3話で「想いを守る戦い」を繰り広げていたことから続いて、ここでは個々人の感情や思想を尊重しようという姿勢を感じますね。そして同時にこれは自己への受容ということに繋がります。「ないもの」を痛感するのはどうしても相手と自分を比較することから始まりますが、いったんねだるのをやめてみよう、なんてエピソードだったんじゃないでしょうか。


さて、ここで対する相手のリフレクターですが、仁菜も詩もオーソドックスに剣を振るって戦っており、またそれでいてそこまで戦闘面での協力が見られません。ここで両者の戦闘スタイルの差が浮き彫りになっていますね。また、仁菜や詩が少女たちの絶望の感情で黒ずんだフラグメントを集めていることには、何か彼女たちの過去の経験から動いているようにも感じさせます。
『I Want The One I Can't Have』の歌詞を思い返すと、敵リフレクターたちは、絶望という共感を餌に路地裏で少女たちを誘惑する危険な人々……と言えるのかもしれません。

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『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第4話より


…………


さて、4話の内容はこんなところですが、気になったシーンが一つあります。


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ポスターを貼りながら、会話する陽桜莉と瑠夏。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第4話より


瑠夏の誕生日は8月16日らしいですね。今七夕の告知をするぐらいの時期ということで、作中で彼女が誕生日を迎えるエピソードがあるのかもしれません。
ところで、スミスには誕生日ソングが存在します。その名も『Unhappy Birthday』というタイトルなのですが……いやはや、どうなるかドキドキしてしまいます。

第5話 何もみえないわたし

このタイトルなんですが、実はこれだ!と思える答えが見つかっていません。
”わたし”があるから一人称が入っている曲かなと、SNSのシェアを掛けつつ『I Won't Share You』などを考えましたが、流石にニュアンスが違う気がします。
みえない、を知らないと解釈して『Heaven Knows I'm Miserable Now』も考えましたが、これは自分の感情が見られていない方なんですよね、内容にそぐわないほどではないですが。
見えない、から暗闇≒夜の連想で、『This Night Has Opened My Eyes』……これも少しニュアンスが違う気がします。


何か見つからないかと「The Smiths see Lyric」などというワードで検索していたところ『What Do You See in Him?』という気になる曲名を見つけました。
これは直訳すると「彼に何を見出しているの?」という感じですが、転じて意訳としては「何も見いだせない自分」が導けそうな気がします。
これは未発表曲で、後に『Wonderful Woman』に変化した曲らしいです。


とはいえ8話現在の命名法則からするとそこまで曲タイトルから大きく捻ったサブタイトルはなさそうなんですよね。もっとシンプルに『Well I Wonder』とかかもしれません。
直訳だと「疑問に思う」というタイトルです。今回はこちらでいくことにします。


4話に続き、2ndアルバムの『Meat Is Murder』に収録されています。

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アニメ本編も見返しましたが、サブタイトルの「みえない」はやはり単純に「目で見える」というよりは「わからない」ぐらいのニュアンスという感じもします。
「わたしからは何もみえないな……」てな感じで疑問を抱いてる曲の主人公に当てはめてみてもまあまあしっくり来るのではないでしょうか。

Well I wonder
Do you hear me when you sleep ?
I hoarsely cry
Why...

(Well I Wonder / The Smiths

Well I wonder
Well I wonder
Please keep me in mind
Keep me in mind
Keep me in mind

(Well I Wonder / The Smiths

「あなた」に「わたし」のことを気にしてほしい、覚えていてほしい、けれど「わたし」からは「あなた」のことがわからないので、「Well I wonder…」と思い悩んでいる歌ですね。「あなた」の隣、という居場所を切望している主人公の様子が、美しくも物悲しい楽曲とともに描かれています。


さて、アニメの今回のエピソードはインターネットのSNSアプリが大きな働きをしたエピソードでした。少女の想いを奪う敵リフレクターを追い求める陽桜莉たちは、『由紀姫』という少女たちの悩みを解消している投稿者のことを知り、その正体を探っていきます。一方で、その敵リフレクターその人である詩も、由紀姫に目をつけて接触を図ります。
「姿の見えない相手」である由紀姫と対峙していくエピソードでしたが、それは逆に由紀姫が「誰にも見てもらえていない」ことをまた示しています。詩はそこに目をつけ、巧みな話術によって由紀姫の正体である由紀子という少女をメッセージのやり取りで追い詰め、その孤独を刺激して絶望に叩き落とし、フラグメントを奪おうと画策します。

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ネットでしか繋がることができず、本当の自分を見てもらうことのできない由紀子。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第5話より


詩に先を越されている陽桜莉たちは後手に回ってしまい、追いつくことができません。ここで活躍したのが都です。自身も追い詰められフラグメントを奪われかけた都は、由紀子の想いに寄り添うことができました。直接対面することのできない相手に対して、都はネット上で懸命に言葉をかけ、そして由紀子もまたそれに応えます。
「見えない」相手の、「見えない」本当の気持ちを知ることができるのか、そんな人同士の距離がネットという舞台を通じて描かれたお話でした。モニター越しに二人の指が触れるかのようなカットが非常に印象的でしたね。


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メッセージのやり取りで”繋がり”を見出す由紀子(左)と都(右)はそれぞれのモニターに手を伸ばす。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第5話より


こうして都と由紀子二人の話としては丸く収まりましたが、一方でこのエピソードの裏の主人公は『マゾっ子 ウタちゃん』こと詩でした。「友情や愛、そんなものは幻想」と言い切り、「痛み」にしか「生きている」を見出すことができない詩。ネットで複数アカウントを用いて荒らしまがいのことをして楽しむ彼女もまた、多くの周囲の人々にとっては「見えない」少女なのではないかと思ってしまいます。もっとも本人は他人にあわせるほうがよほど苦痛に感じそうではありますが……。
とはいえひとまずは勝手なことをしたら叱ってくれる、つまり「keep me in mind」してくれている『山田センパイ♡』こと仁菜の隣が彼女の居場所になってくれているのでしょうか?

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失敗し狼狽するも、仁菜のところに戻ろうとする詩。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第5話より


由紀子を通じて陽桜莉たちは『マゾっ子 ウタちゃん』のアカウントを知ります。正体のまだ「見えない」詩ちゃんたちに対しても、一歩前進といったところでしょうか。今回のサブタイ認定は歯切れが悪くなってしまいましたが、謎を追うエピソードということで『Well I Wonder』は悪くない読みなんじゃないかなと思っています。

第6話 心に茨を持つ少女

これは一発でわかります。『The Boy With The Thorn In His Side』(邦題:心に茨を持つ少年)ですね。わたしがスミスネタに気がついたのも他でもない、この6話のタイトルを見た瞬間でした。「わからねえならしょうがないな~一番わかりやすいタイトル出してあげちゃう」てな制作陣のメッセージが伝わってくる気がします。
直訳では「茨をそばに持つ少年」という感じでしょうか。実はモリッシー本人の談ではここでの”茨”は「自分を認めなかった音楽業界の人間」を指しているらしく、そうなるとこの「心に茨を持つ少年」という少年自身が茨を持っている邦題は、モリッシーの意図からするとややニュアンスが異なるのかもしれません。ともあれ、響きの良さからも大変親しまれている邦題であります。


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3rdアルバム『The Queen Is Dead』に収録されています。ここまで6タイトルありますが、実に1/2が『The Queen Is Dead』に収録されている楽曲です。この3rdアルバムはスミスで最も名盤との評価を受けることも珍しくはなく、代表曲が並んでいるので不思議はありません。

The boy with the thorn in his side
Behind the hatred there lies
A murderous desire for love


How can they look into my eyes
And still they don't believe me ?
How can they hear me say those words
Still they don't believe me ?

(The Boy With The Thorn In His Side / The Smiths

「少年」は自らを信じようとしない「奴ら(they)」に反感を持ちつつも、一方で他者からの愛を激しく欲する哀しき主人公として描かれています。"Man"ではなくあえて"Boy"としたわけですから、やはり連想してしまうのは大人に虐げられる子ども、の構図でしょうか。


作品に合わせてアニメのサブタイトルは”少女”になりましたが、今回の「心に茨を持つ少女」が指すのはたっぷりとその過去が語られた仁菜であることに疑いはありません。
かつての彼女は母親と二人で暮らしていましたが、この母親は度々仁菜に酷い折檻を行ったり、食事も用意せずに幼い仁菜を家に残して外出したりと、非常に問題のある人物として描かれます。躁うつ病の気がある母親は時に仁菜に優しい言葉をかけるのですが、一方で本当に彼女に向き合っているようには見えません。学校にも行けず、家で一人佇むだけの仁菜の境遇が心に突き刺さります。このような状態ですから「A murderous desire for love」という状態も、「Still they don't believe me」であることもぴたりと当てはまるようについ思ってしまいます。
モリッシーの談からここでは離れてサブタイトルそのまま「心に茨を持つ少女」として考えますが、今少女たちの想い(フラグメント)を奪うリフレクターとして活動している仁菜が、自身の中にも茨を飼っている(周囲の人を傷つけてしまう)とすることにもわりと納得がいきますね。


『The Boy With The Thorn In His Side』は最後に「これから行きていくためにはどうやって始めればいい? どこにいけばいい? 誰に会えばいい?」という風な歌詞で締めくくられています。本来導き手である親など周囲の大人の助けを得ることができず、途方にくれてしまう少年ならではの悲しみが非常によく表現されているなと感じます。

And when you want to Live
How do you start ?
Where do you go ?
Who do you need to know ?

(The Boy With The Thorn In His Side / The Smiths

半ば子どもを見捨てているような、しかしそれでも唯一の肉親だった母親を失い、そして幸運にもたどり着いた次なる家も無くしてしまった仁菜。果たして彼女は安らぎを見つけることができるのでしょうか。


さて、今回は仁菜の過去が中心となったエピソードでしたが「心に茨を持つ少女」は彼女だけなのでしょうか? 自らの過去の絶望の経験によって強靭な意思を持つ仁菜は、パートナーの詩の過去ですら「ぬるい」と切り捨てる強さをもっています。しかしそんな彼女すらも膝をついてしまうほど、あまりにも鮮烈な絶望の持ち主、それこそが美弦でした。

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美弦との共鳴を果たすも、その衝撃から仁菜は息を切らし膝をついてしまう。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第6話より


周囲の人間を傷つける「茨」が心にあるならば、それはすなわち共鳴相手の心すら傷つけてしまいます。
凄惨な過去の描写によって表現された仁菜の絶望の「茨」はわたしたち視聴者を戦慄させました。しかしそれでもなおこのシーンでは、美弦の中の得体の知れない恐怖をわたしたちに雄弁に語るための、いわば引き立て役となってしまうわけです。つくづくこうした情報の開示の仕方や構成が巧みなアニメーションだなと感じますね。果たして、美弦の過去には一体何が隠されているのでしょうか……?


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仁菜(左)と美弦(右)は共鳴の後、握手を交わす。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第6話より

「白い薔薇」の前で交わされた握手は、その裏に「茨」を隠し持っています。
絶望こそが、フラグメントを奪うリフレクターたちの唯一の繋がりということかもしれません。




という感じで今回は『BLUE REFLECTION RAY / 澪』6話までの内容でした。ここまで要素を照らし合わせて考察(と言う名のこじづけ)をやってきましたが、それにしてもThe Smithsの持つナイーブさや徹底的な弱者に対しての歌詞スタイルがうまくマッチしているアニメ作品だなと、改めて感じています。
人々の共鳴や共感、心の繋がりといった内省的なテーマを丁寧に描きながら、一方で現状の敵の首魁である美弦の得体のしれなさも順調に感じさせてきて、これからどうなっていくのか期待が止まりません。今後のブルリフにも注目していきたいと思っています。

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ミート・イズ・マーダー(紙ジャケット仕様)

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*1:便宜上こう語りましたが、モリッシー自身は「自分はヒューマンセクシャルである」と自称していることを断っておきます。モリッシー、自身のセクシャリティをヒューマセクシャルだと説明する (2013/10/22) 洋楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)