日陰の小道

土地 Tap:Green を加える。

アニメ『BLUE REFLECTION RAY / 澪』における、ロックバンド・The Smiths要素の解説と考察〈3〉(第7話~第9話)

記事的にしばらく期間が空いてしまいましたが、改めて前半部分を振り返っていきます!

前回までの記事(クリックで開きます)
cemetrygates1919.hatenablog.com
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第7話 お願いだから欲しい物を手に入れさせて(Please, Please, Please Let Me Get What I Want)

タイトルは『Please, Please, Please Let Me Get What I Want』でしょうか。
編集盤『Hatful Of Hollowなどに収録されています。

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2分弱の極めて短い中で、「欲しい物を手に入れさせて欲しい」というほとんどただそれだけの歌詞、シンプルな切実さが胸に迫ります。こうした小品チックな美しい曲はこのバンドが最も得意とするところだな、と実感しますね。

So please please please
let me, let me, let me
let me get what I want
this time

(Please, Please, Please Let Me Get What I Want / The Smiths

さてアニメの舞台は七夕祭。短冊に願い事を書くこのシチュエーションでは、「欲しい物」がはっきりと示されます。
このエピソードで、短冊は2度登場します。1つ目は過去回想の、陽桜莉と美弦による「お母さんに会いたい」という願い。もう一つは、現在の時間軸で陽桜莉の「お姉ちゃんに会いたい」というものです。
どちらも「家族に会う」という小さな幸福を願う切実なものですが、後半は最悪の形で叶えられてしまいます。陽桜莉の前にようやく現れた美弦は、敵対しているルージュリフレクターとしての姿をしていたのでした。ラストシーンで表示されるサブタイトル「お願いだから欲しい物を手に入れさせて」の残酷さたるや、思わず身震いしてしまいます。



最悪の形で叶えられてしまった、陽桜莉の願い。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第7話より

この7話は前半でもショッキングなエピソードで、いくつかの「反転」が発生します。
まずは陽桜莉や彼女の話を聞いていた瑠夏視点での「優しいお姉ちゃん」だった美弦の「立ちはだかる敵」としての恐ろしい姿への反転。それと同時に「お姉ちゃんに会いたい」という実現すれば幸福なはずの願いが不幸を導くという反転。更には少女たちの想いを守るという正義の戦いをしていたはずの陽桜莉たちリフレクターが、その少女たち自身に「なぜ苦しみの想いを捨ててはならないのか」と悪人のように詰められる反転。アニメーションとしては空に浮かぶ美しい七夕祭の花火が、フラグメント=花が次々と消えていくのを連想させるあまりにも残酷なシーンに思える、というのもそうでしょうか。


ここで『Please, Please, Please Let Me Get What I Want』のことを思い出してみますが、ここでは善人が悪人に変わってしまうような運の悪さ、悲惨な人生が歌われていたりします。そういう恵まれない主人公だからこそ、「Please, Please, Please Let Me Get What I Want」という歌詞・タイトルの切実さがなおのこと伝わってきますね。

Haven't had a dream in a long time
see, the life I've had
can make a good man bad

(Please, Please, Please Let Me Get What I Want / The Smiths

とにかくめぐり合わせが悪い、というのはこの7話と通じるところがあるのではないでしょうか。何もかも上手く行かない中で、こんなにもささやかな願いが叶えられないのか、どうか、どうか……という心境は曲の主人公と陽桜莉に共通しているように思えてなりません。
また想いを消したがっている少女たちも、「欲しい物を手に入れる」というよりは「捨てる」方ではありますが、その願いは他者に否定できることでもないような必死さを感じさせます。誰も彼もがただよりよい幸福を願っているだけなのに、状況は最悪になっていきます。


コンビニで言い争っているところに出くわしてしまったお客も、めぐり合わせの悪さのひとつかもしれません……。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第7話より

さて、”善人”が”悪人”になってしまうような悲惨さ、というとやはり陽桜莉の記憶の中の姿と現在の姿のギャップを突きつけることとなった美弦のことが思い出されます。
彼女も過去回想では”願う人”でありました。そんな彼女がどうして今のように他者の想いを奪う側になってしまったのか。後のエピソードでは彼女の願いに対しての切実さもまた描かれますが、そういうところを踏まえると今回の曲がもっとも当てはまるのは陽桜莉以上に美弦なのではないか、という気もしてきます。兎にも角にもこういうところも似たもの姉妹、という感じでしょうか。つくづくままなりませんが……。

第8話 パニック(Panic)

直球なタイトルが来ました。そのまま『Panic』でしょう。
人気のシングル曲ですがアルバムには未収録で、編集盤『The World Won't Listen』などに収録されています。


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歌詞ではDJやDiscoへの不満が噴出しており、当時流行の音楽に対するモリッシーの姿勢が感じ取れます。

Burn down the disco
Hang the blessed DJ
Because the music that they constantly play

(Panic / The Smiths

アニメを考えるにあたって80年代ミュージックシーンの是非は直接絡んでこないと思いますのでひとまずこの話題は置いておきますが、ともかく曲では町に溢れる流行歌で気が狂いそうになっている様が描かれています。
つまりここでも個人と大勢との対立があるわけですね。

Panic on the streets of London
Panic on the streets of Birmingham
I wonder to myself

(Panic / The Smiths

どこもかしこもくだらない流行歌で溢れていて、恐慌・混乱状態に陥る……。アニメ的に考えると大勢によって自分を見失ってしまうことと繋がってくると思います。
想いを守るために戦っていた陽桜莉ですが、姉である美弦が敵対する側のリフレクターだったことや、佳奈を始めとした「自ら想いを抜きたがっている少女」たちを前話目の当たりにして、迷いが生じています。想いを原動力とするリフレクターに変身できなかったことも、彼女の今回の精神状態の悪さを示しているでしょう。


危機的状況においてリフレクターに変身することができず、戸惑う陽桜莉。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第8話より


アニメにおいて、気持ちを通い合わせる「共鳴」という言葉が何度も登場します。今回のエピソードでは陽桜莉はリフレクター変身できないだけではなく、瑠夏との共鳴もできなくなってしまっています。
共鳴とは音の振動が伝播することですから、「音」と「想い」は密接に関わっています。そう思うと、流行歌によってパニック状態に陥る楽曲と、陽桜莉が共鳴できなくなっているということにも少し接続を感じますね。


さて、今回もうひとりパニック状態になっているのは前回から活躍しているフラグメントを抜いた少女・佳奈です。苦しみから逃れたい一心でフラグメント=想いを抜いた彼女でしたが、その結果どんどん自我が希薄になってしまいます。自らの状態を「死んでいることと同じ」と突きつけられた彼女は、茫然自失のまま道路に飛び出し、間一髪のところで助けられます。
この作品では、様々な傷ついた少女たちが大勢登場します。その対処法としての一つが、ルージュリフレクターたちの行っているこの「想いを抜く」ということなのですが、その結果待っているのはどんなに内省(I wonder to myself)を繰り返しても自らの形が定まらない、死んでしまったかのような状態だったのです。


既に語られた仁菜のように、ルージュリフレクターたちはそれぞれ悲しい過去を(基本的には)抱え、同じように苦しむ少女たちの苦悩を消そうと暗躍します。しかし社会という多数派に苦しめられた少女たちの想いを一様に漂白するというのも、また別の方向で彼女たちの個をないがしろにしている行為でもあります。やはりこのアニメで描かれているのは、想い=個を守る戦いなのですね。


次々と少女たちのフラグメントを奪っていく仁菜。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第8話より


ロンドンやバーニンガム(などどこもかしこも)がパニック……と歌われたように、町中の少女たちが想いを抜かれ、パニック状態になるエピソードでした。
リフレクターたちもそれぞれの想いを抱えながら悩み苦しんでいますが、その戦いも一つの佳境を迎えていきます。

第9話 彼女の言ったこと(What She Said)

『What She Said』でしょうか。
2ndアルバムの『Meat Is Murder』に収録されています。


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悲観的なことばかりを話す”彼女”の曲です。「What she said…」という歌詞から続けて、”彼女”が何を言っているのか、ということが繰り返し歌われています。

What she said :
"How come someone hasn't noticed
That I'm dead
And decided to bury me ?
God knows, I'm ready !"

(What She Said / The Smiths

「私がもう死んでいることに誰も気づいてくれない」との彼女の嘆き。
アニメでは美弦が百に対して彼女がどういう出来事を経験してきたのか、その一端を話すエピソードでした。その中では「世界はかつて滅び、私達は一度死んでいる」という衝撃の事実が語られます。楽曲の”彼女”と最も重なるようなのはやはり美弦となるでしょうか。

「美弦や百も一度死んでいる」という衝撃の事実を話す美弦。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第9話より

曲中での”彼女”の発言というか曲の表現していることの解釈はなかなか難しいなと感じるのですが、モリッシーの自伝的楽曲と解釈されていたりもするらしいです。
その方向だと”彼女”の予言するタトゥーを入れた男性はギタリストのジョニー・マーと読めるとか(ジョニー・マーはバーケンヘッドではなくマンチェスター生まれらしいですが)

What she read
All heady books
She'd sit and prophesise
(It took a tattooed boy from
Birkenhead
To really really open her eyes)

(What She Said / The Smiths

ここでの”tattooed boy”って不良的なニュアンスだと思うのですが、そういえばアニメでも不良っぽい二人組が美弦を争うシチュエーション……と取れなくもないかもしれません。


ぶつかりあう仁菜と百。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第9話より


楽曲での”彼女”は誰からもなかなか理解されず、いずれ来る運命の人を待ちつつ、何か拠り所を欲しているような悲劇的な人です。
美弦を中心としたドラマに絡む今回の登場人物としては仁菜と百がいますが、味方サイドである仁菜は、頑なに1人で戦おうとする現状では美弦の理解者とは言えない状況でしょう(前回『パニック』で仁菜は一度力を失っています。リフレクターが力を失うということは、前回の部分で書いたように、彼女もまた陽桜莉同様想いが揺らいでいる、ということなのでしょう)
一方の百はかつての美弦のパートナーであり、美弦に寄り添うような強さを見せますが、立場も思想も今の美弦とは相容れないものです。


何も知らない人(百)から見ると滑稽(be idiocy)に見えてしまうような美弦の孤独が強調された回だったと言えるのではないでしょうか。しかし一方で百の必死の言葉で、美弦の赤い指輪は密かに青く光を放ちます。百が彼女を連れ出してくれる”tattooed boy from Birkenhead”に再びなるかもしれない……というような希望も少し垣間見えるようなエピソードでした。


他、楽曲とは関係ありませんが少し気になったことを。


美弦の発言に、ショックを受ける百。
『BLUE REFLECTION RAY / 澪』第9話より


美弦の「世界はリセットされた」という発言を受けて百は「ゲームじゃねえんだから」と動揺します。ここで美弦敗北後に世界を救ったのが、ブルリフ澪の前に登場したゲーム『BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣』での出来事ですので、ちょっとメタなセリフでもあります。どちらにせよブルリフ澪はアニメなので、ゲームではありませんが……。




ということで、今回は6~9話の話でした。全然更新できなくてアニメも完結してしまったのですが、最後まで素晴らしい作品だったのでこの記事もちゃんと書きたいな……と思っています。

あとゲームと言うと、今情報が次々公開されている次回作ブルリフ帝では、澪のキャラクターもたくさん登場するようでムチャクチャ楽しみです。
わたしはSteam待ちなので、Switch/PS4組よりちょっと遅れてしまうのが辛いですね。


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