日陰の小道

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『こちら、終末停滞委員会。』は今の世界に満足した、いい年の大人が読むべき本ではない

タイトルの通りなんですけど。『こちら、終末停滞委員会。』を読んだんですよ。

こちら、終末停滞委員会。 (電撃文庫)


不可視の危険生物。儀式を行う魔術結社。深海に潜む謎の機械遺跡。ジャージ姿のメカメイド。現代世界の裏に潜むこれら"終末"に脅かされ、破滅するしかない世界の終わりを救うことはできず、しかしその終わりを"停滞"させんとする。そんな、SF伝奇ホラー異能力アクション萌え萌え学園モノである本作。
(長いけど、本当にそうなんだよ)

さながら世界の真実が暴かれてしまうように、これを読んだあなたの周囲の世界の見え方は、ひょっとしたら変質してしまうかもしれない。
それこそ、まるで"この本そのものが"読んだものを狂わせる"終末"であるかのように。

あなたが、今見えている世界に充分満足していて、今のまま暮らしていこうとしている、落ち着いて、良識のある、立派な大人であるならば、この奇想天外なライトノベルを読むべきではないのである。




なぜならば、

SNSでフォロワーが褒めていたので、

もういい年で会社に勤めていて、

普段そんなにライトノベルを読まないのに、

うっかり読んでしまった俺は……


もう自分の中で静かに眠っていた中学生の気持ちを抑えられないからだ!!!


助けてくれよ。

本当に。


1ページ目を開いて飛び込んでくるカラーページの萌え萌えイラスト……ではなく、数々の専門用語の解説!
更に冒頭を読んだだけでも伝わってくる「設定の過積載」ではないか?と思ってしまうほどの二転三転のハチャメチャな展開!
どうしたって好感度が湧いてしまうイカした異能バトルに、
そしてストレートな、萌え!

遠慮という文字の存在を忘れたかのような佇まいには、どこか鮮烈なカッコよさすら感じる。しかしながらカオスに傾きすぎず、あまりに効率的に巧みに愛着が湧いていく人物描写や、更にスルスルと入ってくる物語には、確かな技も感じたりして。
そんな風に、令和の時代にけして読者を退屈させないスピード感がありつつも、平成をきっちりオタクとして生きた私にはどうにも懐かしく感じてしまう、このライトノベルの雰囲気が、なんとも愛おしい。これを今の若い人が読んだときにどう思うのかは、結構気になるところだ。

おれはさ、止められないんだよな。中学生の気持ちがさ。

そうだよな、

おれはいい年だから自分がなるなら「先生」しかないと思ってたけどさ……

本当は俺が学生で、

異能力を持って、

世界を救って、


萌え萌えの美少女と仲良くなるやつがやりたかったんだよ!!!!!


お前らはそうじゃないのかよ。

なぁ。


ちょっと真面目な話もしておこうか(や、おれはずっと真面目、だが?)
"終末"の影を確実に捉えながらも、あくまで「停滞」に留めるのはどこか今の世らしいのかな、と思ったりする。
疫病の世界的な流行。各国の情勢不安。国内の経済や政治の雲行き。どれもこれも私たちに不安を煽り、「もはや世界はどうにもならず、その中で個人の力はあまりにもちっぽけだ」ということを常に突きつけてくる。そこで私たちができることはどうにか自分の生活だけはマシにするぐらいで、良き社会人をやるだとか、老後のために貯蓄するだとか、そんなもんだ。そうやって賢こく、さかしく、生きていくのが、マトモな大人だと言われているわけではないですか。
それって全然間違ってもいないんだけどさ、そんなことばっかり言われるのは、つまらない世の中だなと思うわけよ。

愛とか世界平和だとか、そういうことを言うのがある種バカらしくなって、どこか冷めた世の中で。そんな中でこの作品が「終わりの先延ばし」をしながらやろうとするのは、どこまでも真っ直ぐな善意を貫くことであり、隣人を助けることであり、ただただ善き人であろうとすることだ。人間の意志の輝きを称賛する、眩しいぐらいの人間讃歌だ。
あまりにもストレートで、少し間違えれば陳腐になってしまいそうなほどのストレートな熱血が、文中に迸っている。

しかしこの"終末"というのがもしも私達の生きる世界と通じるのであれば、この滾るような熱さこそが、今の冷めた人々に対する痛烈なカウンターでもあるのではないか。

いや、社会のみんなはどうとか、ほんとは知らないからこんなこと言うのは全然無責任でよくなかったけどさ、でも俺は思い知らされたわけよ。いつの間にか「冷静で落ち着いた大人」になっちゃってるんじゃないか、ってさ。
全体的にほのかに懐古的な空気が漂うことを感じながらも、今だからこそ響く作品という時代性もある作品ではないか。そう思ったりしたのである。


だからこの『こちら、終末停滞委員会。』は、今の世界に満足していて、大人としての落ち着きある振る舞いを良しとしている方は、読むべきではないかもしれない。

しかし、今の世界にどこか不安を覚えていて、今の自分にも満足してない人はさ、『こちまつ』読みましょうよ。で、俺と一緒に熱血をやりましょう。





じゃあここからは読んだやつだけで……


『こちら、終末停滞委員会。』で誰が一番萌えか、議論すっぞ!!!!!!


俺は………

恋兎ひかり、たも。


ギターが武器のメチャメチャで最強な美少女に人生をメチャメチャにされたくねぇのかよ!?


おれは……

されてぇ。


お前らはどうなんだよ。

かかってこい。

負けませんよ。


おわり