日陰の小道

土地 Tap:Green を加える。

随筆:もしかするとお姉ちゃんキャラのことが大好きなのかもしれん

今期放送中のアニメに異世界ワンターンキル姉さん』という作品がある。コメディタッチでありつつもここぞというところにケレン味の強さがあるギャップに、アニメそのものの印象が変わるようなストーリー性の強いインパクトのあるED映像など、なかなか面白い作品である。2017年に『異世界スマートフォンと共に。』が放送されたときにはまだ物珍しかった印象のある異世界モノだが、そこから6年ほど経った今となっては異世界アニメだけで10を超える本数が放送されていることもあり、すっかり定番ジャンルの一角になっている。
昨今の異世界シーンにおいて、アニメ化された作品という上澄みの上澄みを見ていても、独自のアイデアや個性を提示して抜きん出ようとする作品は珍しくない。『異世界ワンターンキル姉さん』も、そんな過酷な異世界群雄割拠の中でなかなか物珍しい設定を持っている作品の一つである。異世界モノといえば主人公がいわゆる「チート能力」と呼ばれるような絶大な力を持っていることが珍しくないが、この作品ではその名の通りとんでもない力を持っているのは「姉さん」の真夜姉の方なのである。主人公の朝陽は、そんな弟大好き姉さんに振り回されている。
しかし、このアニメにおいてなんだか私の中で不思議と刺さるものがあったのは、主人公以外の仲間が絶大な力を持っているというポイントではない。他でもない姉さんが「弟大好きお姉ちゃん」であるところなのである。どうにもこうにもアニメのことを考えようとするとこの設定を無視できなかった私は、とうとう観念して認めざるを得ないことになってきた。「俺ってもしかしてお姉ちゃんキャラのことが大好きなのかもしれん」ということを。


onekillsister.com


元来、お姉さんキャラというタイプについてそこまで好きだったわけではない。お姉さんタイプというのは、その性質上どうしてもアダルティな魅力と結びつくことになる。これはプレイヤーの実年齢にかかわらず、主人公に対して年上=大人に近い魅力を求められる立場になっているからである。先に挙げた『異世界ワンターンキル姉さん』もその例に漏れない印象だ。これは、姉というポジションの弟に対しての優位さの表現において、キャラクター設定として豊満さがチョイスされているところもあるだろう。中にはお姉ちゃんが幼さを強調されることもあるだろうが、あくまで年上からのギャップ的戦術に他ならず、基本的にはアダルティと言っても差し支えないと考えている。
ロリコンでないにしろどちらかといえばまあ……幼い / スレンダーのほうが好きと言えなくもないオタクだった私としては、このアダルティな魅力にピンと来ることは少なかったのである。にもかかわらず、「(弟大好き)お姉ちゃん」という属性は、それらの壁を突き抜けて来たわけである。

異世界ワンターンキル姉さん』を見るまで自身の中の「お姉ちゃんキャラ大好きかもしれん」に全く気が付かなかったわけではない。積極的に「姉モノ」を掘って来たわけでは無いが、この「お姉ちゃん大好きかもしれん」に至った原因というものには心当たりがある。それがD.C.IIダ・カーポIIというギャルゲー(エロゲー)である。この『D.C.II』、ものすごくシナリオ派のゲームというわけではないのだが、とはいえ「萌えゲー」としては優等生的な面白さがあった。
私はオタク人生の中でそれほどはちゃめちゃにエロゲにどっぷりだったわけでもないが、しかし人から「お前はどのギャルゲが好きだったんだよ」と聞かれれば「う~ん……やっぱりボキは、『素晴らしき日々』とかですかね……」という答えを用意している。この有名シナリオ派ゲーム「すば日々」の影響下には私はそこそこあるだろうという自覚があり、家に唯一あるクラシックのCDも「夢見る魚」を聞くために購入したエリック・サティのピアノ全集である。しかし、振り返ってみると、単なる「萌えゲー」であるはずの『D.C.II』の影響もまた無視することができないのである。チャレンジングでマニアからの評価を得やすいような「すばひび」がRadioheadの『OK Computer』的な名盤であるとしたら、奇をてらわないがオーソドックスな完成度を誇る『D.C.II』はOasisの『(What's The Story) Morning Glory?』的名盤といえる。ともかく、『D.C.II』の萌えは、初音島の一年中枯れない桜*1のように、私の中で根を下ろして「お姉ちゃん萌え」という名の花を咲かせ続けていたのだ。

D.C. II P.S.~ダ・カーポII~プラスシチュエーション(通常版)
参考:PS2版『D.C.II P.S.ダ・カーポII〜 プラスシチュエーション』パッケージ

D.C.II』にはパッケージヒロインとして二人の姉妹ヒロインがいる。姉の朝倉音姫と妹の朝倉由夢の二人である。血の繋がりはないものの、主人公・義之と家族同然に生活している。*2このダブルヒロインの存在によって、『D.C.II』を遊ぶプレイヤーは最終的に「お前は姉と妹のどっちが好きなんだよ」という問いに直面することになっていると言っても過言ではない(多分)
その上で、私が好きだったのは¥音姉だったのである。*3ふんわり世話焼きお姉ちゃんタイプであるところの音姉なのだが、生徒会長という立場も相まって絶妙に弟(主人公)にとって支配的であるところが良い。「弟くん」という絶妙な距離感の二人称も魅力的で、世のお姉ちゃんキャラは全員が「弟くん」と呼んでもいいんじゃないかと思っているぐらいである。*4

https://ws-tcg.com/wordpress/wp-content/images/cardlist/d/dc_w09/dc_w09_101.png
参考:ヴァイスシュヴァルツ『世話焼き音姫

やはり姉というのは主体に対して支配的な立場であることがいいと思う。ここは妹に比べても姉キャラの大きな特徴足り得るのではないかと思う。何と言っても基本的に姉 / 兄というのは基本的に弟 / 妹が生まれたときから姉 / 兄なのである。故に弟 / 妹にとって姉 / 兄というのは、その家族内において、弟 / 妹目線から言うと絶対的に優位な立場であるように思えるのだ。さながら姉というのは、カードゲームの先行を獲得して以後対戦相手にプレッシャーをかけ続けているようなものである。
妹 / 弟というのは主体にとっての人生に後から付け加えられる存在である。現実的に実現可能かどうかは置いておくとしても、常に人生の未来には妹 / 弟が増えるという可能性があると言える。一方の姉 / 兄というのはもう一生増えることはないのである。だからこそ、姉というのは主体に対して支配的であると思える。私はお姉ちゃんで言えばふんわり世話焼きお姉ちゃんが好きなわけだが、この支配的なポジションが前提故にお姉ちゃんの愛情というのはパワフルで、それはふんわりキャラであっても醸し出されるものがあるように感じている。逆に言うと、後からの追加でお姉ちゃんポジションを獲得したならば、否応なしに時間の重みを感じさせられることになる。ここについては『ご注文はうさぎですか?』という作品を読んで貰えば一目瞭然であろう。
私にとって影響を与えた音姉だが、先程も軽く語ったように、主人公の義之と血縁関係はなく、正確に言えば「姉同然」という立場である。もしかすると姉にこだわりがある人にとっては、実姉以外は邪道と考える人もいるのかもしれない。ただ、私は姉のアドバンテージというのは時間の積み重ねによる優位であると考えているため、幼い頃からの姉同然は姉と言って差し支えないのではないかと思う。

ところで、最近この姉と弟の関係で面白いと思った捻れがある。それは、異世界転生後のお姉ちゃんという存在である。
前世の記憶を持ったまま生まれ直す異世界転生において、姉は必ずしも(本来の転生前の)年齢的に言えば絶対的な立場ではないのである。しかしながら、そんな第二の生においても、やはり姉と弟には支配的なパワーバランスが成立しがちなのだ。これは第二の生における父母よりも、ある意味では優位に立っているのではないかと個人的には考えている。転生後においては、前世の精神を保っているならば心というものは必ずしも肉体に結びついていない。*5だからこそ、肉体としての血のつながりがある父母との強い繋がりというものは、逆に若干薄れてしまうのである。しかしお姉ちゃんというのは、とにかく大切なのは時間的なアドバンテージであり、そもそもの実姉であろうとも直接血の繋がりはないわけだから、転生後においても成立し得るのである。だからこそ、本来は主体に対して支配的たり得ないお姉ちゃんが、しかしなんとなく逆らえない存在として君臨している……という捻れた関係が異世界転生後のお姉ちゃんにはある。

最近良かった異世界転生後のお姉ちゃんは『陰の実力者になりたくて!』の主人公:シド・カゲノーの姉:クレア・カゲノーである。表面上は優秀な姉クレアと、才能が乏しい弟シドという姉弟だが、ここでシドは陰の実力者として多大な実力を隠しているため、実際はクレアよりも遥かに強力な存在である。にもかかわらず、シドはクレアの支配的な立場に屈することに甘んじている(直接的に反抗しようとそもそもしていないという前提の上ではあるが) 何よりもクレアは表面上は厳しいがその実弟のことが大好きで、弟の危機となれば激昂するような激情を見せるのが良い。やっぱり世の中、弟大好きお姉ちゃんなのだ。

更に今期にもイチオシ異世界転生後のお姉ちゃんもいる。『転生貴族の異世界冒険録』の主人公:カイン・フォン・シルフォードの姉:レイネ・フォン・シルフォードである。カインは神々から異常に大量のスキルを獲得しているので才能としては明らかに姉を上回っているのだが、やはり姉というのは支配的で、どうにも頭が上がらない。あとレイネはステータスに「カイン大好きっ子」があるぐらいということがガチで素晴らしい。やっぱり世の中、弟大好きお姉ちゃんなのだ。

(『転生貴族の異世界冒険録』1話)

私が今からお姉ちゃんを得ようとしたら、異世界転生をするよりほか方法がない。
そうしたロマンを感じるという意味でも、異世界転生後のお姉ちゃんには不思議な魅力があるのだなぁと、そう思うわけである。

(『転生貴族の異世界冒険録』4話)


*1:D.C.』シリーズの舞台である初音島お約束の設定。シナリオの中で大体枯れる。

*2:ちなみに幼なじみキャラとして月島小恋というヒロインもいるのだが、昔なじみのアドバンテージとしてはこの姉妹に若干負けていて、微妙な立場でちょっとかわいそうだと思う。同級生という強みはある

*3:本質ではないがこの姉妹のうち音姉がスレンダー担当なのも正直良かった

*4:ちなみに由夢の「兄さん」も妹からの呼び方としては一番好きなので、妹キャラは「兄さん」と呼んでほしいと思っている

*5:Does the body rule the mind, or does the mind rule the body? (the smithes / Still Ill)