日陰の小道

土地 Tap:Green を加える。

しんどい時には300万円が効くらしいが300万円はなかなか落ちていないので、3000円を握ってThe Smithsを買いにいこう

うっすらと春めいてきた今日この頃、皆様いかがお過ごしだろうか。
僕は最近朝っぱらから一週間連続で電車が遅延するという憂き目にあってしまった。冬場は気持ちが沈むというが、しかし暖かくなってきたからと言って気分は向上するとも限らないのが実情だ。
TwitterRedditなんかを眺めていても、誰も彼もが憂鬱に悩まされている時代。先日、しんどい時には300万が必要なのだ! という意見を見かけて、それには全く異論はないのだが、しかしポンと300万をゲットするのは残念ながら現実的でないなとも思うわけだ。ないよな?

では現実的に癒されるにはどうするかというと、何か癒される事にお金を払うのが手っ取り早いのでは。例えば、3万で名作アニメーションの『ご注文はうさぎですか?』のBOXあたりを買って癒やされるのもとてもいいと思う。でもたぶんもう少し安く済んで、かつ汎用性が高いと思うので、僕は今回、UKの80年代ロックバンド『The Smiths』を聞くのをお勧めしたい。
ロックフリークには常識レベルの有名バンドの紹介になってしまうので、恐らくスミスをしっかりとご存知の方にはむしろにわか語りで石を投げられそうでコワイが、それでも一人でも多くの人がスミスに出会うことを祈り、この記事を書いてみる。

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The Smithsとは?

Morrissey(Vo) Johnny Marr(Gt) Andy Rourke(Ba) Mike Joyce(Dr)の四人編成のUKのバンドだ。
モリッシーが弱者の立場から書く、時に攻撃的に、時にシニカルに、それでいて優しい歌詞。そしてそれを飾り付ける、ジョニー・マーの天才的で巧みなメロディセンスと綺羅びやかなギターが特徴だ。
また、多くのロックバンドが持っていたであろう、男らしくあれ……といった感じの「マッチョな価値観」といったものをまるっきり排除し、なよなよした雰囲気を漂わせているのもスミスの特色。
その独特の空気感から、1982年に結成、1987年に解散という短いキャリアながら、80年台のイギリスで熱狂的な渦を巻き起こし……たらしい。
OasisRadioheadなど、ロックシーンを牽引したバンドからもリスペクトされている。

ざっくりアルバム紹介

ちなみに、とりあえず手っ取り早くスミス入門したいならリマスターもされたボックスセットを購入するのがおすすめ。かくいう私もボックス組でね。なのでアルバムに関してはボックス盤が基準の語りになるよ。

Complete

Complete

でも確認したら中古しかもうありませんでした……

The Smiths

The Smiths



記念すべき1stアルバム。この頃から内省的で美しく儚げな世界観は完成されている。年代があとになるにつれて攻撃性を増していくので、そういった要素に関してはこの1stが一番色濃いかも。ひたすら裏声で歌ってみたり、金切り声みたいなシャウトをしてみたりと暴れるモリッシーも魅力。社会の怒りへの共感溢れる「Still Ill」、ギターリフが愉快な「What Difference Does It Make?」など収録。

Hatful Of Hollow

Hatful Of Hollow


オリジナルアルバムではなく編集版だが、1st、2ndの中間期の曲を多数収録しており事実上の2nd的な位置づけでもある。そのような立ち位置ながら、ベストアルバムに挙げる人が多いというのも頷ける珠玉の名曲の数々である。
一曲目から二分強という短い演奏時間でドラマチックかつ完成されたポップを奏でる『William, It Was Really Nothing』はスミス全体においてもかなり好きな曲の一つ。『Please, Please, Please Let Me Get What I Want』の物憂げな雰囲気もまた良い。「Still Ill」「This Charming Man」あたりは1stとは違ったアレンジだが、ここらへんは1stバージョンのほうが好きかも。

Meat Is Murder

Meat Is Murder

肉食は殺人である!とセンセーショナルなタイトルをぶつけてくる2nd。モリッシーは菜食主義らしく、2016年のモリッシーの来日公演に行った時も動物愛護の冊子が配られるという徹底ぶりであった。
より攻撃性を増したサウンドが特徴。『The Headmaster Ritual』のイントロのインパクトから度肝を抜かれる。学校という閉鎖された空間で振るわれる暴力と異常性に関する題材も素敵。『What She Said』のテンションの高い演奏や、『Barbarism Begins At Home』のユニークでファンキーなリズム隊など、幅を広げた彼らのサウンドが楽しめる。

The Queen Is Dead

The Queen Is Dead


最高傑作と名高い3rd。実際僕もこのアルバムがなんだかんだ一番好きかもしれない。ちなみに僕のIDはここに収録の『Cemetry Gates』から拝借している。スミス流のポップ弾ける曲調ながら、「恐ろしいほど晴れた日だから墓地の入り口で待ち合わせをしよう」「墓地の人々は僕と同じように愛し、憎しみ、情熱を持ちそして生まれ、生き、死んでいった。そのことがひどく不公平に思え、なんだか泣きたくなった」というひねくれ感100%の歌詞、まさにスミスの真骨頂といった感じがする。
スミスの中でもかなりハードな曲調の『The Queen Is Dead』や『Bigmouth Strikes Again』も聞き所。またなんといっても『There Is A Light That Never Goes Out』はとてつもない名曲。「君の車で連れ去ってほしい、あの家には僕の居場所はないから」「今君のとなりで2階建てのバスに突っ込まれて死ねたら、最高の死に方だね」と消極的な逃避願望、現実からの浮遊感を美しくも幻想的なメロディが飾る人気の一曲。いやこのアルバムに関しては、陳腐な言い方だが本当に捨て曲がないと思う。

The World Won't Listen

The World Won't Listen

ベスト的なアルバムその1。流行りの音楽が嫌いすぎて、「DJを吊せ!!」と糾弾した歌詞が物議を醸したらしい人気曲の『Panic』などが収録。各アルバムからも幾つか曲がピックアップされているので、とりあえず聞くにはいいアルバムかも。僕のお気に入りはなんといっても『Half A Person』そのまま半人前、といった趣でいいのだろうか? 「5秒くれたら私の人生を語ってあげるよ、16歳、不器用で内気、それが私の人生、それが私の人生……」こんな歌詞モリッシーにしか書けないだろうよ……。

Louder Than Bombs

Louder Than Bombs

ベスト的なアルバムその2。前述の『The World Won't Listen』のバランスが良いので、微妙な扱いをされているところもたまに見るが、「Is It Really So Strange?」なんかはボックス内ではこのアルバムにしか収録されていない。ぶっちゃけ好きな曲が入ってる方聞いたらいいと思う。

Strangeways, Here We Come

Strangeways, Here We Come

ラストアルバムである4thアルバム。
「彼女が昏睡状態でとても深刻なんだけど、僕も殺そうと想ったこともあったよ」とかいう恐ろしげな歌詞が恐ろしくポップな曲調で語られるギャップが不思議な「Girlfriend In A Coma」や、同じく明るめな曲調から「アンハッピー・バースデイおめでとう、君は悪魔みたいな奴で嘘つき、君が死んだら少しは悲しいかもしれないけど(でも絶対泣いたりはしないよ)」などという歌詞を飛んで来る「Unhappy Birthday」なんかがいかにもモリッシー。後者に関しては、この後モリッシージョニー・マーは袂を分かっているわけでちょっと邪智してしまうが。ちなみにジョニー・マーはこの歌詞を絶賛していたらしい。
4thは、1stからの叙情的な雰囲気は控えめになりメジャー感が強くなり壮大なサウンドになっていると思う。これもまた彼らの一つの集大成の形だろうか。このアルバムを最後に、ザ・スミス解散する。

Rank

Rank

こちらはライブ・アルバム。現代の視点から見ると、スミスの音はおとなしめでいわゆるロック的でないと
みなされてしまうかもしれないが、このアルバムの演奏の勢いと観客の熱狂はスミスがロックバンド以外の何物でもないと語っていると思う。「The Queen Is Dead」「Ask」「What She Said」「Bigmouth Strikes Again」あたりはライブ映えがよく、エモーショナルが高まっており良い。

PVで見るザ・スミスのおすすめ曲

僕があれこれ言うよりも聞いてもらうのがやっぱりいちばん手っ取り早いと思う。

youtu.be
ボックス盤では『The Smiths』に収録。
スミスの代表曲の一つだと思う。なんといってもジョニー・マーのメロディアスなギターが目立ちに目立つ、ザ・スミスとはこういうバンドなのだ!と雄弁に語る一曲だ。 グラジオラスの花束を振り回すモリッシーのパフォーマンスもなかなか衝撃的だ。
歌詞はダンディな男性と対比し、少年の劣等感が描かれていると思う。「自転車が丘でパンク/僕はまだ男になれないのか?/そこに魅力的な車と魅力的な男性が現れる」「身の程を知らない少年/素敵な彼は言う「指輪を返しなさい」/彼はとても色んなことを知っている……」モリッシーは同性愛者という話らしいが、この歌詞もどこか耽美で怪しげな雰囲気だ。



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『Hatful Of Hollow』などに収録。
「泥酔している時だけは幸せだった」「仕事を探し、そして見つけた」そんな歌詞から続けて紡がれるのが「今神様だけが僕の憂鬱を知っている」
こんなに情けなくて、そして胸に突き刺さる言葉があるだろうか。ロマンチックな物言いでもなく、こんなに赤裸々な詩だというのに、多大なる共感をもって心に染み渡るのがモリッシーの書く歌詞だ。まさか世界にこんなに自分と同じような事を想っていた人がいたとは思わなかった驚きが、スミスの歌詞を知った時の感動だった。そしてそれを裏で抱える人間が大勢いたから、こんなにスミスも愛されているのだろう。「何故僕の貴重な時間を、僕が死んでいるか生きているかも気にしないような人々に使わなければいけないのだろうか?」ああ、まさにそんな想いを抱えている人間が他にいるとは!
そしてそんなモリッシーの世界を支えるジョニー・マーのギターの美しさ、である。


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『The World Won't Listen』などに収録。
スミスの中でも特にキャッチーで、明るい気持ちになれる曲。「内気っていうことは素晴らしい、やりたいことができなくなってしまうけどね」と歩み寄ってから、「僕に尋ねてくれよ、ダメなんて言うはずないさ」と励ましてくれる。ここから「ASK ME」と繰り返し呼びかける歌詞が、とてつもなく優しく、肯定感に溢れている。「愛じゃないとしたら、これはもう爆弾だよ、僕達をつなぎ合わせる」という表現もおもしろい(でもどういう意味なんだろう?)

さいごに
どうだろう、スミスの凄みが伝わっただろうか? え? 古臭い? そりゃしょうがない、今から30年ぐらい前のバンドなんだから。
ただ、やはりスミスの語る憂鬱は現代に生きる我々にもとても通じるところがあると思うのだ。それは人間がいつの世も大して変わらないということでもあり、社会はいつだって弱者を虐げるひどいところだということかもしれない。ただ、だからこそいつの世もスミスは紛れもない普遍性持ちながら輝き、人々の心に刺さる。歴史的にも重要なバンドの『The Smiths』、世の中に疲れた方は是非一度手にとってみてね。

Sound of the Smiths: The Very Best of the Smiths

Sound of the Smiths: The Very Best of the Smiths