日陰の小道

土地 Tap:Green を加える。

話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選

年末のこちらのaninadoさんの企画に参加します。

■「話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選」ルール
・2023年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

陰の実力者になりたくて! #20「魔人降臨」

脚本:加藤還一 絵コンテ:中西和也 演出:中西和也 総作画監督:飯野まこと 作画監督:飯野まこと、明珍宇作 作画監督補佐:菊地菜都美

シャドウとベアトリクスの戦いに触発されたアイリスは、魔剣を手に参戦。王都各地で激しいバトルを繰り広げる。いっぽうシャドウに生かされたローズは、アルファと遭遇し…!?
(公式あらすじ)

2期も放送されたノベル原作のアニメ1期最終回エピソード。1期は主に22年の放送だったのだが、全20話で最終回は23年に放送された。「ってぇ!」のCMといい、今年のTVアニメシーンを彩った一作と言えるだろう。

主人公のシャドウは「陰の実力者」なるものを目指す、まぁとにかく変なやつなのだが、しかしながらべらぼうに強い。このエピソードでもこの世界有数の実力者2人を相手にしながらも、軽くあしらってしまうのだからとんでもない。
このエピソードを選出した理由は、本作においてそのシャドウの底しれぬ強さが一番に表現されていると思う回だからだ。のらりくらりと攻撃を交わしながら、正面にいたと思えば気がつくと後ろにいる。緩急を織り交ぜた一連のシーンからは目が離せない。高速で街中を縦横無尽に駆け回りながら戦闘するシチュエーションも、民衆に気づかれずに世界を動かす「陰の実力者」の表現として最高。結局のところこのシャドウという男、世界情勢のことをなーんにもわかっておらず、本当にしょうもない奴なのだが、もうここまでカッコよく見せられてしまっては、こちらとしても説得されてしまうしかない、というパワフルなアニメだ。

印象的なシーンとしては、今回の特殊エンディングの月光も外せない。これしかない! と思わせるキマリっぷりは圧巻。まさに「陰の実力者」足るにふさわしいアニメだったのではないか。

The Legend of Heroes 閃の軌跡 Northern War #10「穗の香が導く再起の銀」

脚本:平松正樹 絵コンテ:こでらかつゆき 演出:ウヱノ史博 総作画監督:徳田夢之介

タリオンの銃撃により傷を負ったラヴィだったが、命からがらその場を逃げ切り、故郷・ミシュスク村で母親に看護されていた。ラヴィは村で裏切り者だったはずのヴラドが、村人から慕われていたことを知り、祖父の言葉を思い出しつつ英雄としてあるべき姿に想いを巡らせる。しかし、ラヴィを追うフェノメノン隊が村を訪れ、彼女を見つけ出すために麦畑に火を放つ。
(公式あらすじ)

人気ゲーム「軌跡」シリーズのスピンオフ作品。滅亡に瀕した傭兵国家の中で、「英雄」とはなんなのか、ということを問い続ける戦記モノ。大河ドラマチックな激動の歴史のうねりを描く面白さはもちろん、そこで生きる人々の息吹をも感じる、マクロとミクロ両方面の描写に優れたアニメ作品だった。

この話は本作の扱う「英雄」というものを語る上で外せないエピソードだ。傷つき故郷へと戻った主人公のラヴィは、人々から英雄と讃えられる祖父の言葉を思い出しながら、その本質を紐解いてゆく。「1人1人が英雄なのだ」そう語る祖父の姿を胸に、ラヴィはここまでの旅のことを思い返す。それは、様々な人と関わり、そして助けられてきた記憶であった。「英雄」その言葉に思い悩んできたラヴィは、ようやく一つの答えにたどり着く。それは、結局のところ、自分になにができるのか、というシンプルな問いを突き詰めたものだった。
「1人1人が英雄」言葉にすれば簡単なものだが、ここに説得力を生み出すことができるのは、本作がずっと生きた人間を描こうとしてきた成果だと思う。誰もが、懸命に生きているのだ。きっと未来の歴史書には描かれない、歴史の陰にある生きた人間の奮闘がアニメの中で掬い上げられている。この目線こそが、本作の素晴らしいところだと私は思う。

ところで、私はテレビアニメの良いところは積み重ねが描けることだと思う。2時間ほどの映画と比べて、単純な時間の長さがあることもそうだし、30分で一区切りという単位だからこそ、描ける歩みや時間の流れがあると思う。アニメを通して今まで積み重ねてきた旅の記憶がふと呼び起こされる、今回のような構成こそが、テレビアニメの醍醐味なんじゃないかと、そう私は思っている。

人間不信の冒険者たちが世界を救うようです #12「冒険者はまだ世界を救えない」

脚本:岡篤志 / いまざきいつき 絵コンテ:いまざきいつき 演出:いまざきいつき 総作画監督:長尾浩生 作画監督:飯飼一幸、川上俊弘、菊地淳亮、木村聡志、竹内一将、田中淳次、野沢弘樹、馬場竜一、三関宏幸、水谷剛徳

ステッピングマン事件の決着は、サバイバーズに必ずしも救いとはならなかった。改めて彼らが対峙するのは“過去と日常”。苦悩する彼らは、人類が避けて通れぬ難題にどう立ち向かうのか? サバイバーズの戦いは続く!!!!
(公式あらすじ)

ノベル原作の作品。リッチな作品でないながらいまざき監督のユニークな演出が光る、いぶし銀のアニメだった。最終回はコンテ演出監督回ということもあって、特にその演出の妙が目を引く回だった。

このエピソードでは、戦いを終えて平穏な日常を再び迎えたサバイバーズの面々が、しかしどことなく落ち着かない日々を過ごしていることが描かれている。Aパートでは、一人称的カメラワークや、違和感をおそらく敢えて生じさせる映像のつなぎ方などを駆使して「特別悪いことがあるわけでもないのだが、しかしどこかぎこちない様子」が上手く表現されている。しかしBパートでは、平面的な構図で人物を同時に画面に収められ、印象が異なってくる。ここで断絶のAから融和のB、という変化がなめらかに表現されているのだ。これを見た時に私は、映像・演出にてこうして描ける物語もあるのだなぁと感銘を受けた。

工夫とアイデアでアニメってこんなに面白くなるんだ! という歓びがある作品だったと思う。リッチな作品にも良さがあるのだが、どうしたって誰もがそういられるわけではないテレビアニメシーンにおいて、私が惹かれてしまうのはどうしてもこういう作品なのである。

cemetrygates1919.hatenablog.com
この12話については単独で記事を書いたのでこちらも掲載。

江戸前エルフ 第6話「Stand by Me」

脚本:ヤスカワショウゴ 絵コンテ:齋藤徳明 演出:堀内直樹 総作画監督:SAI 作画監督:杭 新華、葉 増堯、程 震雷、堀 ほのか、後藤玲奈、葉 宇静 プロップ作画監督:横山友紀

テスト勉強に追われながらも集中できない小糸。小糸と遊べず愛想を尽かされたと不安になるエルダ。
しかも小糸が学業成就のお守りを落とし、別の神社への浮気を疑われる始末!
このすれ違いを解決する策とは……!?
(公式あらすじ)

漫画原作作品。東京・月島を舞台に、長寿のエルフと巫女の交流を描くコメディ作品である。深夜の遅い時間に、毎週ほっこりとした気持ちにさせてくれる作品だったことを覚えている。

Aパート、テスト勉強のためにすれ違う小糸とエルダの距離はコメディチックなものであったが、Bパートにて東京スカイツリーを舞台に神事を行う時、2人の生きる時間の差というのは、どうしようもなくそこにあって、無視できないものであった。今回、かぐや姫の話が登場するのだが、2人の物語の先にあることは、どうやったって長い長い別離なのは避けられないのだろう。このいずれくる別れの話は、けして今回直接的に語られることはないが、しかし仄暗いスカイツリーの暗闇がどこか物寂しく感じてしまうのは、それを誰もがわかっているからであろう。しかし、そんな神と人との距離を、エルダは小糸の手を引いて乗り越えようとしてしまう。エルダと小糸の抱える寂しさと、そして相手に対する愛情や思いやり。2人の心情が繊細に描かれた、静かながらも美しい回だったと思う。
天を突くかのようなスカイツリーの中だからこそ、ここは人と神が同時に居られる場所なのかもしれない。

このアニメは、ほどほどに新しくほどほどに古い月島というチョイスが絶妙だった。近代の変化を受け入れつつも江戸の情緒が残るという、過去と現在が絡まっていることを感じさせる場所としては、この場所はとても優れたロケーションだったように思う。そしてそんな場所を舞台に、現実の風景の中で暮らすアニメキャラクターの姿が生き生きと感じられた作品だった。聖地を強く感じさせる作品で、今年真っ先に出てくる作品ってやっぱりこれだ。

事情を知らない転校生がグイグイくる。 第04話「おばあちゃんち」

脚本:ヤスカワショウゴ 絵コンテ:あおばみずき 作画監督:今木宏明

夏休みも真っ盛り! 西村さんは大好きなおばあちゃんの家へ里帰りする。
けれど、連れて来ていた子猫のクロが脱走してしまう。涙ながらに探す西村さんの元へ、クロを抱いてやって来たのは、なんと高田くんだった!
ふたりは西村家のお墓参りへ行くことに。
そこで高田くんは、生まれてすぐに西村さんがお母さんを亡くしていると知って……。
(公式あらすじ)

漫画原作作品。クラスで「死神」と呼ばれいじめられている西村さんを慕う転校生の高田くん、というシチュエーションで展開するコメディ作品。ちょっと重めの設定だと思うが、見ている時にそれほど引っかかりがないのはコントロール力の高さだろうか。

DYNAMIC CHORD下級生2と、私は影山監督がアニメで描く四季がとても好きだ。今回のエピソードで描かれるのは夏の様子だが、監督の四季の描写の上手さが期待通り感じられた回だったと思う。セミの声、風鈴の音、夏らしき音に彩られつつ、高田くん不在の中騒がしくない夏を過ごす高田さんの様子。高田くんが訪れて、急に浮つく夏休みの躍動感。夕暮れ時、鐘の音が鳴り、高田くんが自身の言葉を思い返してショックを受けてしまうシーン。ベタではあるが夏の一幕が情感たっぷりに描かれている。
このエピソードは2日間をまたいでいるのだが、アニメとしては昼→夕→夜、と流れが作ってあるのもいい。無邪気な子どもたちの昼の時間を過ぎて、日暮れ時に涙を流した時、子どもは少しだけ大人へと近づいたのかもしれない。

ところで、私が特に影山監督を信頼していることの一つに、間のとり方、音の使い方の上手さという時間感覚のセンスがある。特にちょっと退屈なおばあちゃんの家でのシーンを、風鈴とエアコンの音の変化で、ゆったりとした時間の流れを緩やかに表現していたのが良かった。優れたテンポというのはハイスピードだけでなく、こうした緩慢さの中にも存在するものだろうと思う。

山田くんとLv999の恋をする Lv.13「朝 起きたら」

脚本:中西やすひろ 絵コンテ:川野麻美、浅香守生 演出:川野麻美 作画監督:竹内杏子、唐澤雄一、村上史明、宗崎暢芳、宮前真一

衝動的に山田への気持ちを吐露した椿は、改めて彼を呼び出す。山田の気持ちが別の女性に向いていることはわかっていたものの、学生生活の中でどんな想いを抱いてきたか、すべてをぶつけようとする。その気持ちに対し、山田は……。
同じ頃、茜はギルドの焼肉オフ会に参加していた。山田も遅れて合流するはずであったが、緊張からかついつい飲みすぎ、泥酔してしまった茜。そんな状況の中で合流した山田は、嫌がらずに茜に付き添う。そして酔いが覚めた茜に対し、山田が取った行動とは――。
(公式あらすじ)

漫画原作作品。オンラインゲームを通じて交流する、茜と山田の恋模様を描く。とにかく縦横無尽の演出アニメで、デフォルメから少女漫画っぽいキラキラ感のあるものまで、なんでもござれという感じで幅広い演出を繰り出してきて、見ごたえがあるアニメだった。

最終回のこのエピソードは、いよいよ登場人物たちの恋路が一つの決着を見せるエピソード。なんと言っても委員長がカッコいい。自らの恋が実らないとわかっていても、気持ちをハッキリと伝えようとする強さ。たぶん彼女の行動がなかったら、山田が自分の恋心をしっかりと自覚することってまだなかったんじゃないだろうか。恋心をガラス細工みたいにキラキラと美しく見せてしまうのが、本当に上手いアニメだ。

この回について、実のところあまり選評などを書ける気がしてない。じゃあなんで選んだのかというと、もうこの回はピュアな恋路の結末に絶叫してしまって、めちゃめちゃになっちゃうからだ。「山田って私のこと好きなの!?」コメディチックに繰り出された茜のこの問いに対する答えは、溜めて溜めてたった一言「バレたか。」ほんとにたまんないな。起きたら夢だと思っちゃうかもしれないから明日電話する、っていうのもすごくいい。泥酔しながら告白しちゃうシチュをこんなにロマンチックにやれるアニメ、なかなかないよ。

AYAKA-あやか- EPISODE12「恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ」

脚本:高橋弥七郎(GoRA) 絵コンテ:石栗和弥  演出:住石亜蘭 総作画監督中山和子、南波天、柴田裕介 作画監督中山和子、南波天、柴田裕介、覃启若、周俊杰、欧文莹侠、スタジオグラム、ワンオーダーBigOwl、Revival

尽義を助けるため、家を飛び出した幸人。龍となり、空を駆け、真っ直ぐに火山口へと向かう。命脈を感じ取り、尽義がいる場所へと飛び込んでいく。しかし命脈はあまりにも広大だった。どうすれば尽義を見つけられるのか。途方に暮れる幸人は不意に誰かに呼び止められる。見覚えのあるお面をつけたその男は八凪真人――幸人の父であった。
(公式あらすじ)

オリジナルアニメ。日本のとある小さな島々を舞台に繰り広げられる和風ファンタジー作品だ。本州とは少し違う文化を持つ島の様子は、度々登場する「あやかい」という方言によって表現されていたりする。「あやかい」って何なんだろう、と我々(と、外から来た幸人)は思うわけなのだが……この言葉がとても効果的に使われているのが、この最終回なのだ。

常に荒御魂によって脅かされる島は、ずっと自然との調和を慎重に護っていかなくてはならない。最初、私は「こんな島に人が住むべきではないのでは」と思っていたのだが、次第にこの島(列島)というシチュエーションが、他でもない私たちの暮らす日本を反映したものだとわかったとき、このアニメを見る目が変わってしまった。地震大国日本、もし慣れ親しんだ土地が住めなくなってしまって、はいそうですかと割り切れるものではない。
島の暮らしを護らんとした尽義さんの選択も、そう思うと重みを感じずにはいられない。

命脈に逆らうのではなく、流れに身を任せる。本作の掲げるアミニズム的な大らかな価値観が、私はとても好きだ。自然の中、社会の中で、調和を育んでいくということを1クールかけて描いた作品だった。
ラストシーンで、島での暮らしに馴染んだ幸人が、島のことを「あやかい」と評するのもとても好きだ。今ならば、このアニメを見てきた私たちもすっかり島の文化に慣れ「あやかいなぁ」と自然に思えるのだから。このアニメを見るということは、このアニメの世界と調和する体験なのだ。

好きな子がめがねを忘れた Episode 9「好きな子と校外学習に行った」

脚本:八薙玉造 絵コンテ:鈴木信吾、横峯克昌 演出:横峯克昌 作画監督:上條円己、谷圭司、築山夢生、中林三紀、古田誠

2人のクラスで校外学習が行われることになった。小村くんと三重さんはそれぞれ同じ班になることを密かに期待していたが、2人の気持ちを汲み取った友人の手助けもあり、晴れて一緒の班となる。校外学習ではめがねを絶対忘れないと息巻く三重さんだったが...。
(公式あらすじ)

漫画原作作品。めがねをいつも忘れてしまううっかりものの三重さんと、そんな彼女を助けながらも密かに慕う小村くんのほのかな恋模様を描く。

とにかく、本作は何と言ってもGoHands久々のアニメ作品なのである。第一報を聞いたときはこのいい意味でコンパクトそうな原作とマッチするのだろうか、なんて心配していたものだが、どうやら杞憂だったようである。まだ恋ともつかないような中学生の瑞々しい関係を描くにあたって、GoHandsのとにかく綺羅びやかな画面作りがうまくマッチしていたと思う。
23年はラブコメアニメが強かった印象があるのだが、間違えなく本作はトップメタの一角だったと感じている。「めがねを忘れた」というだけのシチュエーションから、二人の絶妙な距離感を描いており、シチュエーション先行のラブコメってこんなにやれるのか、と驚かされた作品でもある。無自覚な恋心に、記憶のフレームの中で美化された映像……と、こういうところにめがねというモチーフがいい具合に効いているのもいい。

全話絶叫しながら見ていた中、なぜこのエピソードを選んだのかというと、ここで示される2人のあり方が、とても美しいと思ったからだ。困っていたら助けてあげるし、助けられたら感謝する。常に小村くんに頼ってしまい涙を流す三重さんも、そんな三重さんをなんとか励まそうとする小村くん。小村くんが男子中学生らしい欲望を度々漏らしそうになっても全然下品な感じがしないのは、このアニメが打算的な恋心と同時に、無償の思いやりを相手に与えているからなのだと思う。それってもはや愛じゃないか?

BanG Dream! It's MyGO!!!!! #11「それでも」

脚本:小川ひとみ 絵コンテ:森田 紘吏 演出:古賀 公一郎 CGディレクター:古賀 公一郎

燈の詩(うた)で心を動かされた愛音・楽奈・そよ・立希。
一件落着。と思いきや、次のライブの予定が入っていることを知る。
「ちょっと待って!みんな、もっと大事なこと忘れてない?」
(公式あらすじ)

バンドリ!」シリーズの新作アニメ。今回はMyGO!!!!! というバンドを主役に据え、その結成までを描く。

「ドロドロ、ぐちゃぐちゃ。それでも」とのキャッチフレーズの通り、本作の持ち味はメンバー間の衝突やすれ違いといったヒリヒリする人間模様である。そんな人たちがふと歌の中で一つになる、10話はそれをパワフルに描いた名エピソード……なのだが、私が選んだのはその次の11話。ライブを終えて、別に仲良しこよしというわけでもないのだが、なんとなく居心地が悪くないバンドとしての日々。日毎にメンバーの家に集まって、曲を作ったり、楽器を弾いたり、衣装を作ったり、他愛無い会話をしたり。この愛おしい日々が描かれている11話が、私はこのアニメで一番好きなのである。

時々、この1話がなかったらアニメの印象って大きく変わってたかもしれないと思うエピソードがあるのだが、私にとってMyGOのアニメでそのエピソードは11話だ。「一生やる」とまで語られる居場所たるバンドがメンバーにとってどういうものなのか、いや、ここでどういうものへと形作られているのか、ということがナチュラルに描かれている回だったのではないか。この回なくしては、いくらドラマチックな結成秘話があろうと、私はMyGO!!!!!というバンドそのもののことを、そこまで好きになってなかったんじゃないかと思う。
なんてことはないが、しかしかけがえのない、そんな一瞬一瞬を象徴する不出来な集合写真。戻れぬ過去の写真はいつまでも美しいが、しかしこの写真には確かに血が通っている。


note.com
11話を受けて書いたアニメの感想文があるので掲載。

川越ボーイズ・シング 第9話「いつかのアイムソーリー」

脚本:川越学園文芸部 絵コンテ・演出・作画監督:武内宣之

父が炎上系NewTuberと発覚したITはしばらく学校を休んでいた。久しぶりに登校したITを何事もなく迎え入れたクワイア部だったが、動画の大炎上により自宅が特定されたITは、まともな生活を送る事ができなくなっていた・・・。
(公式あらすじ)

ボーイズクワイア部の活動を描くオリジナルアニメ。個性的なメンバーに、一癖も二癖もある(それでいて、奇妙にスマートな!)シナリオ。「変わったアニメ見たいんだけど、なにかある?」などと尋ねられたならば、私は迷わずこのアニメを推薦するだろう。

10選にまで選んでるのだから、変わってるだけではなくて当然めちゃめちゃいいアニメだ。特にITくんが引っ越してしまうこの回はシリアスなトーンが本作の中でも強く、こんなエピソードもできるんだ、と驚かされた。
歌が題材なのでもちろん歌うアニメなのだけれど、今回印象的なのはむしろ歌わないというか、口を見せない/動かさないシーンの多さ。絵のカロリーコントロールも兼ねてかもしれないが、ずっと伸びやかに歌ってきたアニメだからこそのヒリヒリとした緊張感、閉塞感が感じられるし、そんな鬱憤が募りに募って堰を切ったように苛立ち叫ぶITくんの姿が痛々しい。結局ITくんの引っ越しは止められないのだけれど、そんな中でもやっぱり寄り添ってくれるのは歌なのだ。部員たちの餞別の曲「いつかのアイムソーリー」に乗せて、ITくんは部員と共に自分がステージに立っている瞬間を幻視する。春男先生は部員を音楽を鳴らすにあたって換えの効かない楽器に例えているのだが、アンサンブルの中で一体になるという感覚も音楽の持つ力なのだろう。

音楽の力って結構色々なアニメが取り組んでいるテーマだと思うのだけれど、それってステージと観客席で、あるいはステージの中でもいいが、奏でる人と聞く人がいて、伝える/伝わるみたいな話が多いと思う。この9話も部員からITくんへのメッセージとも受け取れるけれど、でもこのアニメで描いてることって更にもっと素朴なことなんじゃないだろうか。
それは、シンプルに、純粋に、ただ歌うことを楽しむということ。
根っからの音楽家の春男先生の言うことってわかりにくいし、独特の話運びも多いアニメなのだが、だからこそなおのこと、ただそうした歌のあり方だけが揺るぎない真実のように思えてくる。

おわりに

今年は150本ぐらいテレビアニメを見たらしい。去年よりもちょっと増えたっぽいのだが、特に秋クールなんかは放送している本数も多めで、正直散漫なアニメ視聴をしてしまったかな、と感じている。量はまあ流れでいいとしても、毎クール5本ぐらい真剣視聴、1本マジの真剣視聴、ぐらいの温度感でやっていきたいなと思う。アニメって相性とかめぐり合わせもあるのだけれど。
まあそれでも、20本に収まらないぐらい見返したいし語りたいアニメと出会えたことは幸せなことだなとやっぱり思う。アニメと、アニメを作ってくれたスタッフの方々に感謝。

ともかく、皆様、来年も熱心にアニメを見て行きましょう。

おまけ:惜しくも選外となったアニメ10本

年末に本記事を書くにあたって、例年通り20本見返し視聴をやった残りのラインナップを紹介。一言コメントを添えて。

テクノロイド OVERMIND 第5話
猫を看取る話。アンドロイドと感情というレガシー的SFを真っ向からやってるアニメなのだが、こういう雰囲気の回もできるんだ、と驚かされたエピソード。

冰剣の魔術師が世界を統べる 第5話「世界最強の魔術師である少年は、戦場で邂逅する」
何と言ってもOP音ハメまでやってしまう冒頭のバトル演出が気持ち良すぎる。レイ・ホワイトの過去エピソードも見応えがあっていい。

トモちゃんは女の子! #10「勝負の行方」「親友でいるために……」
アニメではやや隠されていたジュンイチロウの心の動きがハッキリと描かれたエピソード。視点が変わるこのタイミングで男性陣EDを流すのもいい。

お兄ちゃんはおしまい! #9「まひろと年末年始」
クリスマスのシーンが綺麗で好きだ。鏡を思わせるスマートフォンの自撮りカメラでが、今の生活に馴染んだまひるの姿を写し出す。

REVENGER 第12話「The Sun Always Rises」
ダークヒーローらしく、派手ながらも凄惨な戦闘シーンが見応えがあった。復讐代行を生業としながらも筋を曲げる仲間たちと、しかし因果に追いつかれてしまう雷蔵の最期。悲しくも穏やかな安らぎ。

君は放課後インソムニア #01「能登星」
深夜徘徊のシーンが抜群に良い。カメラのシャッターを使った間の表現に惚れ惚れしてしまう。薄暗い夜に外出する高揚感ってこうだよな、と思う。

天国大魔境 #10「壁の町」
縦横無尽の演出回。クライマックスのジューイチの行動も含めて、一筋縄ではいかない回だった。

攻略うぉんてっど! 異世界救います!? 第12話「最終章 ノアを救う」
ゲームをする/しない、ということでイノーとアルヤァの関係を描いていたアニメなので、最後もゲームを攻略する形なのがいい。メタネタを繰り返した先にこういう熱さも出せるんだ、といい意味で驚いた。

絆のアリル 第20話 ~羽ばたきの行方~
歌で繋がろうとするこれも、また一つの歌の力のアニメだと思う。ミラク渾身のライブパートにしっかりと説得力が乗っていて良い。

MFゴースト Turn09「時速300キロのドッグファイト
文句なしの面白さ。レースシーンは全部最高に面白くて逆にどこをピックするか迷ったが、レース最後のコーナー勝負が熱かったこれで。