2017年の秋に放送されていた『Infini-T Force』が早くも劇場化。TV版は気持ちのいい爽快ヒーロー物に少女の成長なんかも上手く絡めた快作で、あのクールでもかなり好きだった作品だ。ということで劇場版も見逃す手はない、と鑑賞に。
あらすじ
ガッチャマン・テッカマン・ポリマー・キャシャーンと異なる世界の4人のタツノコヒーローが集結し、女子高生:界堂笑と共に強大な悪と戦うTVアニメの続編。
TV版では激闘の果てに消滅した世界を取り戻し、それぞれの世界へと戻っていった彼ら。そうして平穏な日常に戻った笑の元へ、突然ガッチャマン:鷲尾健が再び現れる。健に馴染みの深い科学忍者隊の創設者である南部博士、科学忍者隊メンバーであるコンドルのジョーが新たに登場し、新たな世界の危機にヒーローたちが再び立ち上がる。
感想
TV版の続編となる今作なのだが、新キャラクターやサブタイトルからも分かる通り今回はガッチャマンの世界が中心となる。とはいえInfini-T Forceの健の世界とは異なる世界が舞台となり、科学忍者隊の創設者であり司令官でもある南部博士は健の知っている彼とは別人。一方でもう一人の新キャラクター・コンドルのジョーは健の元いた世界から劇場版の舞台の世界に来ている……という設定でちょっとだけややこしい。
今回は彼らが物語のキーパーソンなのだが、正直な所ガッチャマンを履修していない自分は馴染みが薄かったので、もうちょっと過去のシーンとか見せてほしかったかな……というのは少しある(関係が理解できる程度の説明はちゃんとしてくれるので、「過去のシーンがもっと必要だった」という主張ではなく好みの話)。というのもこの映画、TV版のおさらいが20分ほどあったので、その尺をそっちに使ってほしかったなと思ってしまうのだ。設定やら話やらTV版の内容を知っていることが前提なので、お祭り的作品ということも含めて秋のアニメを見ずにそのまま映画に来た人に配慮したのかもしれないが、しかし僕的には僕のようなガッチャマンは知らないがITFのアニメは見たよ、という人にやさしくしてくれても良かったのでは? というのが正直な所(あの総尺の集編では本当に必要最低限の設定を把握するぐらいしかできないし……)
さてそんな劇場版、空気感が結構TV版と違う。もちろん正義をテーマとしたヒーローたちの活躍にスタイリッシュなアクションはこちらでも健在なのだが、「強大な悪に立ち向かうヒーローたち」だったTV版に比べるとビターな展開となっており、そんな空気に伴ってか必殺技の披露なんかも控えめだ。
何がビターかというとやはり司令官である南部博士が今回健たちと対立する敵役というのが一番にあり、またコンドルのジョーが「悪しき存在は容赦なく叩きのめす」という感じのダーティーなスタイルをとっていることもそうだ。クライマックスでも、南部博士を殺したジョーは博士と手を組んでいたエージェントの手にかかり、駆けつけた健は彼らの亡骸を見て叫ぶ……という容赦のない展開となる。
本作はTV版と違ったアプローチで何を描こうとしたのか。それはやはり劇場広告のキャッチフレーズでもあった「正義を見失うな」なのだろうと思う。TVにおいては苦難を乗り越えていくヒーローや笑の精神性を通じて、正義という存在の輝きを示したITF。そんなITFというシリーズが次にこの劇場版で問うのがより深い「正義」というものの在り方だった。
TV版の敵役であったZも「娘を救いたい」という一心で世界を破壊しており、それはある意味人の心の正しさの危うさを示すような構図でもあったが、しかしあくまで一人の人間を世界よりも優先するという独善的な行動であった。そしてヒーローたちは違う世界の出身でありながらも、その真っ直ぐな正義の心においては一致していたからこそ初遭遇の共闘から隕石の破壊、Zの撃破までスムーズな流れとなっており、その「正義」というものは一貫したスタイルで描かれていた。
一方で劇場版の登場キャラクターは同じガッチャマン世界の人々でありながら("主人公"同士にならない同じ世界故にかもしれないが)その正義へのアプローチは異なっている。
今回打倒すべき敵となった南部博士だが、しかし彼には過去にギャラクターという敵の襲来を退けた功績があり、たとえその時の決断による被害があったとしても、結果的にはより多くの人々を救った英雄でもあった。しかしその戦いの中で科学忍者隊の仲間を失った彼は哀しみの中で次第に狂っていき、このギャラクター打倒の際に作戦に反対した彼の世界の健を抹殺してしまっている。それでも彼の「平和な世界の中で自分が悪役となる」「来るべき時に備えて力を蓄えておく」というのは彼なりの人類が存続するためのアプローチであり、苦い現実を味わってきたからこその現実的手段とも言えるだろう。
コンドルのジョーの前述した悪への容赦ないスタイルも健たちとは異なる正義の執行の形である。今回の過去回想では彼の働きによりかつて敵組織の同行を科学忍者隊が掴むことができたシーンも描かれ、そのジョーの正義は健の甘さを時に補うような形でもあるということが示されていた。今回の南部博士の打倒に関しても彼の助けなしでは健たちは敗北していたかもしれない。しかしジョーも南部博士の健抹殺を目の当たりにしてから博士への憎しみを募らせ、本編ではその復讐に囚われていたようにも感じられる。また彼の大局のために少数を見殺しにする(博士の自作自演ギャラクター騒動を博士抹殺を優先し静観しようとする)といったような姿勢は南部博士のそれと近いかもしれない。
映画のクライマックスで銃撃に倒れた南部博士とジョーの二人。それは彼らの「正義」のための行動への因果応報のようでもあるが、しかしこの意味はもう一つ、健にとっての正義を試すものでもあったのだと思う。
大切な仲間を失って正しき正義のあり方を見失ってしまった南部博士とジョーだったが、二人の死亡は健にとっての仲間の喪失でもある。しかし映画のクライマックス、博士の技術をまんまと手に入れたエージェントを襲撃しする健は「私を殺すのか?」の問いにニヒルに笑い、「これが俺のやり方だ」と飛翔し彼らのトランクケースを爆破するに留める。あらゆるものを救い、あくまで正しき力の執行者であろうとする健の変わらない姿が改めてITFの求めるヒーロー像として示されるのだった。
正直な所TV版のファンとして足を運んだので、あそこにあった爽快さや派手さを期待した身からすると劇場版の異なる方向性はすこし残念ではあったが、とはいえより深く「正義」というテーマに切り込んだ本作はまた別種の輝きがあったようにも思う。
それにしてもTV版でも特に目立っていた印象のガッチャマンが今回は完全にメインだったので、このノリで他のヒーローの世界も見せてくれないかなという気持ちもある。TV版であっさり退場して生死不明のダミアン・グレイにもわりと期待していたんだが、出てこなかったしね。彼の物語があるとすればやはりタケシとの因縁だとも思うので、そういう意味でもまたこの続きが見てみたいので、よろしくお願いします。
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