日陰の小道

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『仮面ライダーアマゾンズ THE MOVIE 最後ノ審判』(2018:日)感想 「生きろ」というメッセージを投げつけた、シリーズ完結作

最近はちょっとずつ仮面ライダーシリーズを履修したりしている僕なのだが、初のライダーというと去年になんやかんやで見ることになったAmazonプライム配信の『仮面ライダーアマゾンズ』なのだよな。初のライダーにコイツは如何なものかというポジションの作品ではあるのだが、刺激の強さとそして何よりも短いのは初心者向けとも言えるのでは? とこの道を辿ってきた自分的には思ったりもする。そんなアマゾンズの完結編である劇場版を見てきたわけだ。

 
www.amazons.jp


あらすじ

人間を喰らう「人工生命体アマゾン」の掃討作戦も佳境を迎え、残るアマゾンは「水澤悠/仮面ライダーアマゾンオメガ」「鷹山仁/仮面ライダーアマゾンアルファ」の2体のみ。そんな中アマゾン駆除組織4Cの執拗な追い込みによって、水澤悠は危機的状況にあった。4Cの激しい攻撃により義妹の美月と共に湖に落下した悠だったが、命からがら山中の養護施設へと流れ着く。身寄りのない子供たちを保護していたその養護施設で、手厚い補助を受ける彼ら。しかし実はそこには、隠された真の姿があったのだった。

 

作品紹介(ほぼネタバレなし)

日曜朝に放送している仮面ライダーシリーズとは一線を画したバイオレンス・ホラーな描写を強調し、ターゲット層を子供から大人に完全にシフトした作風で好評を博した仮面ライダーアマゾンズのシリーズ待望の劇場化。前作シリーズの脚本を担当した小林靖子は監修へとシフトし、本作は『仮面ライダーエグゼイド』のシリーズ構成やアニメ『ラクエンロジック』原案・構成として知られる高橋悠也がそのバトンを受け継ぐ。
そうした変化はあったものの、シリーズの空気感を受け継いだホラーテイストを基本とし、パンチの効いた展開でテンポよく100分を駆け抜けてくれる。『アマゾンズ』シリーズ完結編である本作では、これまでのキャラクターが再結集しシーズン1・2の物語のその先の物語が描かれた。
血しぶき飛び交う残虐ファイトのおもしろさも劇場という大スクリーンにて更に迫力を増し、スピード感と重量感を兼ね備えた戦闘描写は実に楽しい。一方でアマゾンズの特色として避けられないゴア描写をスクリーンで見るのは気分的に大丈夫だろうか……? という不安は少しあったのだけれど、シーズン2を経ていればそれほど強烈なところはなかった気がするのは一安心。巷で囁かれていた年齢制限もなかった本作だが、とはいえまあそこはアマゾンズなのでいくらかは、という感じ。


闘争の中で見つからない答えを求めて藻掻き戦った悠と仁が、ようやくたどり着いた一つの終着点。シリーズに付き合って来た人たちはもちろん、そうでない人も彼らの「生き様」を目の当たりにして、「生」にまつわる本作のぶつけるメッセージを受け取って欲しい。(もちろんできれば全部見といたほうがいいと思うが)



youtu.be
初見の人にも優しいざっくりあらすじ紹介の「4分でわかる仮面ライダーアマゾンズ」もあるよ。

感想(ネタバレあり)













これまでの舞台は街中でのアマゾンと人間の争いがメインだったが、今回は舞台を山中に移して陰謀渦巻く「アマゾン牧場」にて各組織の思惑が激突する。この「アマゾン牧場」が本作のキーであり、今まで境目が曖昧だった人間とアマゾンの関係にはっきりと線引がなされ、「捕食者である人間」と「被食者であるアマゾン」という構図になっていたように感じる。
個人的には「無辜のようでありながらもその日常に怪物性を隠しもつ人間」という今までの雰囲気が好きだっただけに、こうインパクトのある設定を持ち出してはっきりと「人間のおぞましさ」方面のみを強くクローズアップするのはやや好みとズレたかな……という気持ちもありつつ、とは言えこの気持ちこそが本作で描かれた人間の持つエゴそのものであろう、という気もまたする。
咀嚼音が強調され、生々しくグロデスクに描かれた本作での人間の食事シーン。「牧場」というものを持ち出して来たのには現実の人々が行う「肉食」の残虐性を今一度振り返らせる意図を強く感じるし、シーズン1で仁が語っていた「生きるということは誰かの命を食らうこと」を再度思い出させる展開である。

一方でまたこの作品はそうした生存への欲求といったものを肯定する。食われるために生み出された「養殖アマゾン」たち、それが食肉としての役割を全うできないような自我が芽生えてしまっても、人に仇なす危険性があったとしても「生きる」という意志は尊いものであるだろうと本作は投げかける。設定的な違いはどうしてもあるものの、あらゆる存在に仇なしてしまうとして「退治」されざるを得なかったシーズン2の千翼の生涯を思い出してしまったりもする。彼の生きる意志もまた、本作は優しく肯定してゆくようでもある。

そんなことを考えると、アマゾンを全て(自分すら含めて)殺しきることが目的であった鷹山仁が本作にてついに力尽きたというのも、完結編であることに加えてそうした「生きる」という姿勢を良しとするところも関係しているようでもある。彼のアマゾンの殺戮は結果として人類を守ってきたものでもあるだろうが、過去を見据え続ける彼自身の姿勢はあくまで後ろ向きだったのかもな、と思った。
また自分を人間であると語るネオアルファの御堂英之助に引導を渡したのも、(恐らく)同じく人間でありながらアマゾン細胞を移植しアマゾンアルファとなった自らの結末を示すようでもある。結果悠との一騎打ちに赴いたことで、彼自身の戦いに幕を引くこととなっている。戦闘に明け暮れた彼だったが、しかしこの最期の時は本当に安らかな表情であった。

人間と語る存在を殺したことで一線を超えたかのような仁だったが、それと対比される悠もまた「人を食らう」という一線を超えることとなった。食われたのは養殖アマゾンであったが、アマゾンも人も守るという立場を表明し、そして今回食ったムクというアマゾンも彼の守る内に入っている存在であった。生存のための殺しを許容してゆく本作では、守りたい全てを守ろうとする悠の宙ぶらりんなスタンスもまた否定されるべきなのだろう。
瀕死になりつつも「身体の一部となり戦いたい」と語るムクの言葉に葛藤するも、最終的にはそれを受け入れることとなった悠。結果体力を回復し、仁との一騎打ちにも勝利することができた。捕食という行為を「命をつなげる」ということとし、生きることを肯定した彼はこれからも生き続ける。それは今回終着を選んだ仁とは真逆の結末であり、ここでも対照的な両者の姿が見られた。

今までのシリーズで揺さぶられてきた「生」にまつわるテーマを模範的とも言えるスタイルで終結させ、また悠と仁の二人を中心としたキャラクターのドラマにも終結点を見せてくれた本作。その名の通り『最後ノ審判』に相応しいシリーズの完結編となっただろう。

さて映画のテーマ的にはこんなところだと思うのであと少し色々と気になったところを。
映画の新ライダーとなるアマゾンネオアルファ、正直めちゃくちゃデザインカッコよかったな。何がよかったかと言うと男子の好きなものを2つ組み合わせてみたぞと言わんばかりのカツカレー的スタイル、ガトリングとチェーンソーを合わせてしまったトンデモ武器がとても良い。血も吹き出すスプラッターホラー的要素も高めることのできるチェーンソーに、逃げ出した養殖アマゾンたちを一網打尽にするガトリングの残虐性。作品のボスとしての立場に合ったスタイルの武器でもあり、大変イカした獲物だと思う。
本体の御堂英之助も一見紳士的でありながら、養殖アマゾンを家畜と見下すおぞましさや戦闘時に脱ぎだすのが良い……のだけれどちょっと分かりやすい小物すぎたかなというところもある。彼は橘局長一派の「自らが頂点だと驕る傲慢な人間」の代表キャラの一人でもあるのだけれど、それにしても利益の追求に熱心な小悪党でしかないので、狂人だらけのアマゾンズの敵役を務めるにはやや役者不足な気も。まあ結局彼も仁に一線を超えさせる舞台装置という感じもあるので、そういう意味ではこのぐらいの塩梅が適切とも言えるか。

アマゾン牧場の計画を実行した橘局長は今作における黒幕的なポジションなのだが、彼にしてもどうにも脇が甘い(暴走した千翼に4Cを半壊させられたりしてて今回に限らずだが……)
自我を持ったアマゾンを畜産するにはかなりリスクもありそうで、結果として脱走者も出ているしムクの暴走で料理人や取引相手の政治家を殺されてしまったりもしている。施設の管理自体はネオアルファで十分な戦力としても、調理場でアマゾン一人暴走するだけで被害がここまで大きいのは……。絶対安全が本当に言ってるだけなのもじわじわきてしまうが、ここまで警備に穴があると「あの量産シグマ計画はポシャってしまったんだろうな……」という哀愁も漂う(でも俺は結構シグマ軍団と戦う劇場版が見たかった気持ちはあるよ!!)
あとは仁さんを捕まえる鎖の鍵そんなに近くに置いてあるの!?仁さんのベルト取り上げてなかったの!?!? あたり。いやまあ作劇の都合もあるのだろうけれど。多分どっかに仕舞ってたんだろうけど悠の旧ベルトどっから出てきた? もちょっと思った。一騎打ちがシーズン1の再現というの自体は大変めちゃくちゃアツくてとても良い。

生きることの肯定、というメッセージに関しても模範的であると思いつつやや物足りなさはある。アマゾンという存在を通じて人間の怪物性を見せつけたシーズン1や、ひたすら「生」の業や罪深さをぶち撒けたシーズン2の揺さぶられた感触に比べると、劇場版の掲げたテーマはすんなりと受け取りやすすぎたかなという。とはいえ今までのシリーズでは、そうした答えが出せないようなテーマ故に物語に明確な終止符を打つことができなかったというところもあり、そういう意味では完結編である本作は何かしらの答えを(多くの人が納得できるような形で)出さなければならなかったからなのだろうなとも思う。
ここらへんの違いは小林靖子氏と高橋悠也氏のスタイルの違いもあったりするのかな……なとども思ったり。そういえば、最近見た『ラクエンロジック』に『仮面ライダーエグゼイド(の完結編たるトリロジーのゲンムVSレーザー)』に続いて今回も見事に「男と男が殴り合うクライマックス」だったので高橋氏の得意スタイルとしてこれからも注目していきたい。いやまあ、アマゾンズはシーズン1から殴り合ってたんだが。

ちょっと不満もこぼしたが、やはり完結編としては見事に終了させた映画だったと思うし、今までのシリーズの特色も受け継いだ良い作品だったと思う。これでアマゾンズシリーズが終了と思うと寂しさもあるが、またこうした挑戦的なシリーズを是非やってほしいものだ。

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例によって(?)鑑賞後に肉を食べた。EAT, KILL ALLなんだよな。