日陰の小道

土地 Tap:Green を加える。

『Extreme Hearts × Hyper × Stage』感想 ~イベントと、観客について。~

家に籠もっていると気がつかないものだが、どうやら桜も花をつけているようで、気がつけばすっかり世間的には春めいているらしい。そんな少し早い季節の到来を感じる3月26日、外はあいにくの土砂降り。こんなに降る日に外出するのも珍しいのだが、今日ばかりはそうも言っていられない。TVアニメ『Extreme Hearts』初の大型イベント『Extreme Hearts × Hyper × Stage』の日だったからだ。防水のスニーカーを履いて、外に出る。

exhearts.com



物販のためにと昼過ぎに会場である山野ホールに到着する。既に物販のための行列ができていて、私は粛々とその最後尾に並んだ。はっきり言って、お世辞にも世間的には大人気の作品とは言えないアニメであった。*1そんなExtreme Heartsのファンたちが、今この場に一同に会しているのだと思うと、なんだか不思議な心地がした。列の横では抱き枕カバーの完売情報が通達されている。長い列を抜けて抽選参加用の岡咲美保さんのCDを買おうとしたところ、目の前で完売の札が貼られてしまった。個人としては幸先の悪い滑り出しだったが、しかしその落胆よりも、会場を包んでいる熱気のようなものを目の当たりにした事実と、それに当てられて高揚感が湧き出て来る方がよほど自分の中では大きかった。
正直言って、まだあまり実感はなかった。本当に今日、エクストリームハーツのイベントが始まるのか。

実を言うと席の位置もかなりよく、待ちに待ったエクハのイベントの、しかも否応なしに演者の方の目にも思いっきり入りそうな場所ということで、妙に気合が入った。エクストリームハーツはとにかく過酷なスポーツの練習もステージの発表も何もかもを「楽しむ」という心の動きに巻き込んでいくような作品であった、であれば、私も存分に楽しまなくては、と言う気負いがあった。気負いと言っても窮屈なものではない。間違えなく楽しめるだろうという確信があった。
ちょうど世間的には声出しが解禁されてきた頃だ。このイベントでも声出し可、ライブはスタンディングで観戦できる、というアナウンスが流れた。私と同じように、この場では誰もが存分に楽しもう、という空気が流れていたように思える。それは席的にもそういう人が集まりやすいところだったかもしれないし、あるいはやはり久々の声出し解禁イベントへの高揚感だったかもしれない。
人間の順応能力というのは凄まじくて、ほんの2年ほど声が出せなかっただけで、それが当たり前になってしまった。であるから久々に「発声してもいいよ」なんて言われても、2話の小鷹さんのようなか細い声しか最初は出せなかったりするわけだが、しかしそういう状況だからだろうか、皆が声を出して盛り上げていこう、という雰囲気をむしろ感じた気がする。こう書くとまるで体育会系のノリ*2であるが、不思議と嫌な気持ちではなかった。

(Extreme Hearts 2話)

イベントは楽しかった。なんだか全てがうまく回っている、という感じがした。場面振り返りに、アニメのクイズ、コーンホール*3のレクリエーション。形式だけ見たら、よくあるアニメイベントから良くも悪くも逸脱しない作りのイベントだった。それでも、場面振り返りのでは一つ一つのシーンに感じ入りながら演者さんのコメントに耳を傾けたし、クイズは首を傾げたり投稿者さんの知ってる名前に微笑んだりアニメキャプで沸いたりした。コーンホールは意外にも盛り上がって、ちょっぴりスポーツ観戦のアツさを感じたりした。これもエクストリームハーツという作品への好ましさからなのだろうか?

ところで、うまく回った……で言えば、やはりライブの話を外すことはできないだろう。コーナーの後に結構たっぷりめのSnow Wolfのキャストさんのコメントが入り*4その後ミニライブのパートになった。
まずは岡咲美保さんのOP曲『インフィニット』からスタート。今回のイベントで披露されるか微妙なあたりだと思っていたので*5早速大変盛り上がる。

続いてはMay-Beeの登場。元々キャスティング的には本日参加されなかった嶺内ともみさんを抜いた4名の予定、更に大西沙織さんが体調不良で欠席ということで、阿部里果さん、大地葉さん、湯浅かえでさんの3名の登場。フルメンバーでないながらもばっちりとMay-Beeらしい衣装に身を包み、ミニライブなのに衣装をきっちり作ってくれたんだなぁとイベントの心意気に嬉しくなった。
と、ここで機材トラブルによって『Buzz Everyday』の披露が止まってしまう。再開しようにも思ったよりトラブルが深刻なのか全然上手くいかず、May-Beeの3名は一旦退場することに。流石に会場もどよめいていたが、とにかく今日という日を台無しにしないぞという気持ちが会場のそこかしこから溢れてきて、歓声が止むことはなく「May-Bee」のコールが鳴り響いた。場をつなげるためにカメラも観客のフルグラTを抜いたり、最前席のラーメンサンプルを映したり(!)自作のMina de GanbaroneTシャツを映したり(!)しながら会場の熱気を保っていた。今思ってもこの瞬間って会場はすごいバランスで成り立っていたなと思う。イベントの一日において、こんなに「うまく回った」と感じた瞬間は他になかったろう。言ってしまえば観客のユーモアを取り上げるというのは、ちょっと間違えれば興ざめである。しかし、驚くことにうまくいった。ラーメンもTシャツも本編のネタをうまい具合に拾ってかつDIY精神に溢れていたチャレンジングなユーモアだったし、そうしたユーモアを理解して拾いにいったスタッフも果敢であったし、本編でちょろっと登場したユーモアの意味がちゃんとわかる我々他の観客の理解度も高かった。これらの共通認識が綺麗に成り立っていたからこそ、あの場は成立したのである。こんなことって他にあるだろうか?

(Extreme Hearts 3話)
(Extreme Hearts 7話)

このライブのトラブルは配信ではカットされているそうで、ある意味ではイベントの日でもかなり印象的な出来事だったので惜しむ声も結構あるようだ。ただ私としては結果的にいい思い出だったけれど、これは失敗は失敗なので、カットされるのは致し方なしだと思う。Extreme Heartsという作品は、最終回のライブの「失敗」をあれほど感動的に描きながらも、ちゃんとそれは「プロとしての失敗」という線引をする作品なわけだ。*6敢えてやる失敗の、なんと浅ましくつまらないことだろうかと私は思う。であるから、Extreme Heartsはこれでいいのだ。私達がこっそりとあの実は面白かった瞬間を記憶していればそれでいい。

May-Beeの面々が戻ってきて、やっぱり『Buzz Everyday』の音響は結構ボロボロだったわけだけど、それでもステージの演者の方々は熱のあるパフォーマンスで会場を盛り上げようとしたし、我々も盛り上がろうと(・・・・・・・)した。「ど派手なピンチも楽しむパッション」である。演者がペンライトを使っての『HELLO HERO』のパフォーマンスも良くて、ステージも客席も黄色に染まる会場には一体感を感じた。

続いてロゴがどーんと登場し、そしてRISEの面々が登場する。野口瑠璃子さん、岡咲美保さん、優木かなさん、福原綾香さん、小澤亜李さんのフルメンバーが最終話のこれまたきっちり作られた衣装に身を包んで登場する。まずは可愛らしい『Happy☆Shiny Stories』から、これがアニメでのライブの振りの再現率が高くて、正直言って失神しそうになるぐらい可愛かったし失神しかけたぐらいに感激した。
続く『全力Challenger』は思わず私も青色のペンライトを振って、最終回のあのシーンを思い出す。最終回のあの感動的な光景でもっとも好きなことは、あの会場の全てが光に包まれる多幸感であった。私もいよいよ会場の小さな光となって輝いているんだと思ったら、涙が溢れてきた。もちろんここでも振りの再現率が高くて失神しそうにもなった。間奏での野口さんの「みんな大好き」は、仮に単なる再現であれば再現であることだろうなぁと感じていたことだと思う。しかし、トラブルを乗り越えたからだろうか、その場が本当に楽しかったからだろうか、あの時の「みんな大好き」は今日(・・)に向けられた言葉だと感じられた。
ラストは『SUNRISE』。何度聞いても本当にいい歌だ。「最高の僕たちへ」こんなに今日の日にふさわしい歌詞があるだろうかと思った。間違えなくあの瞬間我々は「最高の僕たち」だったと思う。

(Extreme Hearts 12話)

ライブと前後するが、ノノ役の橋本ちなみさんは終始いい味を出していた。声が強すぎて何言ってもノノちゃんぶれるの、強すぎる。作中で実況を務め、リリイベに続いての利根健太朗さんのMCもかなり良かった。軽妙な調子で笑いを誘いながら、イベントをぐいぐい盛り上げられていた。お二人によってライブの転換コーナーでラジオをやっていたのも良かった。ラジオではお便りを募集していたが、こういうところも今思うと参加型のイベントをやっていたんだな。

最後にキングレコードの三嶋さんからの手紙が届いた。指摘されてようやく気がついたが、アニメ1話の陽和が受け取った手紙を思わせるものだと思うと、粋な演出だ。都筑さんとの「とらいあんぐるハート」の思い出、一方一緒でなかったDOG……の匂わせで笑いを取りつつ「エクハはそれほど売れなかった」なんてぶっちゃけた話もやりつつ、抱き枕カバーも完売して、エクハプロジェクト存続させましょう、新曲を出します! という今思い返してもハチャメチャな内容だった。こういうぶっちゃけトークもまたこのイベントの奇妙な内輪感を感じさせるものだが、何もハッキリと決まった話がなくても、これからもエクハを応援していこう、と前向きになれるような話をしていただけるのは本当にありがたい。

少々関係ない話をさせて欲しい。私がファンのバンドにthe pillowsというバンドがあって*7、ちょうどコロナの流行真っ只中に一度ライブがあった。客数も減らしていたからチケットも取りづらく、追加公演でようやくチケットが取れたライブで、それはとても楽しかったのだけれど、たしかにぎこちなさも双方にあった。普段はボーカルの山中さんが「アウイェ!」と言ったら我々も「イェー!」となるわけだけど、そういう双方向性が崩れたことで、やっぱり変質したものもあったのだろう。山中さんもちょっと神妙そうに「皆がいろいろなことを思って覚悟とかをしてここに来てるということがわかる」なんて言っていた気がする。
で、そんな世の中の流れもいくらか落ち着いてきて、ライブで声出しができるようになった頃、また先日ピロウズのライブに行った。我々が歓声を上げると山中さんは本当に嬉しそうで、あの声が出せなかった日のライブも本当に楽しかったのだけれど、そんな夜を明けての声ありのライブって、特別な夜だった気がする。「大切なものを忘れてしまったんじゃないか凄く不安だったんだけど、でもそうじゃなかったんだな」って山中さんが涙ぐんだりしていて。捻くれ者で知られる(すみません)山中さんが「君らによって良くなったりするライブだってあるからな?」なんて言ったりして、笑顔になった。

『Extreme Hearts × Hyper × Stage』の話に戻るが、こうしたここ最近のイベントの雰囲気を感じたことで、ライブってやっぱり演者と観客双方で作っていくものなのかもしれない、なんて当たり前のことが、今になってわかってきたような気がする。観客が目立つことへの懐疑的な気持ちって個人的にはずっとあって、だってライブやイベントというのは演者を見に来ていて、演者が主役なわけだから、観客が目立つべきではないと思っていたところがある。もちろん演者が一番ということには変わりないと思うのだが、それでも我々いてのイベントでもあるのだろう。あのトラブルの時、拍手だけでちゃんと我々の気持ちを伝えることができただろうか。音響トラブルの中でパフォーマンスをすることになってしまって、ぎこちない雰囲気になり、そのままRISEのステージが始まって……なんて冴えないイベントだった可能性だって、余裕であり得たと思う。だからこの夜が、本当に最高としか言いようがないぐらいに楽しかったのは、ほんとにみんなが「そういう風にいよう」と思った結果で、努力の先にあることなんだろう。

こんなこと普段の私は絶対言いたくないし、全然そういう内輪ノリ好きじゃないんだけど。でも今回ばかりは言わせて欲しい。あの会場にいた800人がお前らで本当によかったよ。あと配信を見たお前らも。みんなお疲れ。

会場のパネル

会場を出ると、いつの間にか雨は止んでいた。
その日はもうすっかり暗くなった空しかなかったけれど、明日は晴れて青空が見えるかもしれないな、と思った。
そしてそんな日を繰り返して、きっとまた、じきに暑い夏が来る。

*1:TLでは熱狂的に支持されている

*2:オラ一年! クールのアニメ100本見る前で帰さねえぞ!(アニメ部のパワハラ先輩)

*3:初めて知ったがホビー・スポーツらしい。ハイパースポーツだ……

*4:なかなかないレベルでたっぷりとコメントがあった

*5:後に、曲練習が大変だったという話がキャストさんからあり、なるほど既に何度か披露されているインフィニットを外さないわけがないだろう、と納得がいった

*6:『BEST 4 U』収録 オリジナルボイスドラマ「陽和&咲希&ノノのB4Uストリーム♪」参照

*7:何気にキングレコードと関係があったりする