今日はダラダラと寝転ぶ以外やりたくないな、というテンションだったため、寝転んでいてもやることのできる漫画読みでもやるか、と思い、以前DLsiteで購入はしていた話題作『出会って4光年で合体』を読んだ。噂に違わぬ怪作/そして力作で、流石になかなか食らってしまった。
まんがとしての面白さが抜群にあるのだが、しかし自分はまんがとしての面白さで留まってしまう語りを良しとしたくなくて、というのもこのまんがは他ならぬポルノを真剣やろうとして出来上がった作品であると思うからである。であるから、この漫画の物語の面白さの前に、というかそのあたりはちゃんと整理できてないしまあいいじゃないかということで、このまんがのポルノについてメインで語ることになると思う。それほど物語についての核心的なところを具体的には話さないつもりだが、しかし要素としてはあれこれ書き連ねることになるだろうから、注意されたし。
『出会って4光年で合体』
作中に登場する作家・クリトリス爆撃機(すごい名だ)の語るアナルビーズのように、本作では単なる性的嗜好のために用いられるような"ポルノ装置"が、何らかの意味をもって登場する。それが「醜い種付おじさん」だったり「催眠アプリ」はたまた「セックスしないと出られない部屋」だったりするわけである。ふつう、これら"ポルノ装置"が基本的にポルノ作品でどのようにつかわれるかと言うと、シナリオの省略である。”ポルノ装置”はポルノという、快楽を発生させるための”本番の装置”にいち早くアクセスするための仕組みであり、醜い種付おじさんは多くにはバックボーンがなくただセックスするだけの装置となって絶倫で美少女を犯すし、催眠アプリは一瞬で美少女をいいなりにして犯す舞台を整えるものだし、セックスしないと出られない部屋はセックスしなくてはいけないのだからやはり美少女だったりそうでなかったり、とにかく登場人物をただセックスさせるために用いられるものだ。
断っておくが、わたしはこれら装置を「安易だ」と言うつもりは毛頭ない。ポルノがそもそも優れた快楽装置なのだから、寧ろ辛気臭いシナリオというのは時にそれが主体となってしまい、ポルノという本番の装置に至る前に気持ちを”萎え”させてしまうことだってあるかもしれない。*1
昨今流行りの異世界ファンタジーの、中でも主人公が無双することだとか、そこに出てくる美少女を楽しむことが重要な作品において、必ずしも緻密な舞台設定は必要ではなく、ふんわりと共通認識として存在するファンタジー舞台を活用してしまえるならしまえばいい。無論緻密なファンタジー設定を読みたい、という人もいるだろうし、そういう嗜好に文句があるわけでも全くないのだが、ともかく私はそういう割り切りをもって本番の快楽装置を楽しむことを是としている。
少々話が逸れたが、本作の奇妙なところはそういう装置を用いながら、382ページに渡る物語の中で、物語的な意味をもたせようと試みているところだ。宇宙スケールの壮大なシナリオの中で、これら「ありがち」なポルノ装置的設定・シチュエーションは、少なくともポルノ作品においては「ありがちでない」物語の中で、調和とともに存在している。これは本作のとても奇妙で、独特なところである。
そもそもこの『出会って4光年で合体』というのは、アダルトビデオにある『出会って4秒で合体』というシリーズのパロディ*2だろう。アダルトビデオには寡聞にして詳しくない――少なくともポルノコミックよりは――ので知識ベースなだけの話になるが、そもそもこの『出会って4秒で合体』というのは、すなわち遭遇した瞬間にセックスをするという企画なのであって、早い話「ややこしいシーンは全部抜きにして、”抜ける”セックスシーンを楽しみましょう」という意図のシリーズなわけだ*3
そして本作では、その「4秒」が「4光年」になっている。すなわち「セックスまでマジでありえないぐらいの距離がありますよ」というタイトルなわけだ。そりゃ382ページもあるのも頷けるというものである。実際に、本番――女性器に男性器が挿入されるシーン――は本作においてクライマックスに設置されていて、長い長い物語の果てにようやくそのシーンにたどり着く。そこにはシコ目的で4秒で到達する*4セックスシーンにはない、不思議な達成感と感動があったことは間違えない。感動ポルノとは良く言ったものである。
しかしながら、私が本作を高く評価しているのは、普遍的な"ポルノ装置"を逆手に取って優れた物語を生み出しているからではない。そういうメタ的な手法の、ちょっと意地悪な言い方をするとよくある"ポルノ装置"を面白おかしく「おちょくる」ようなものでは、けしてないと感じている。この作品は、そうした”ポルノ装置”を”ポルノ装置”としての役割を保ったままで、壮大な物語の中にポルノと共に落とし込むことができないか、という実験的な作品だったのだと私は考えている。
例えば、エッチでないシーンがクソ長いだけで単独で切り取ればこの作品のエッチなポルノシーンはボリュームが少ないわけではないと思う*5し、先にも書いたようにクライマックスのセックスというのは極めて重要なシーンなのである。この作品は、物語における重要さ的にも、描写の質としても、相応の熱量をもってポルノを描いている。そして更にそこに加えて382ページの物語が、セックスに物語的な壮大さを産んでいる。本来1ページにも満たない導入で済ますための「セックスしないと出られない部屋」が、最後の最後になって出てきた時の謎の高揚といったら。そしてこの時、本作の竿役――と敢えて書くが――である橘はやとのセックスシーンで、読者はもはや彼のことを顔のない種付おじさんにはけして思えない。ここには、大作ポルノコミックならではのポルノがあるのである。
冒頭の話に戻るのだが、私は本作を「ポルノコミック」として評価していて、そしてあまりにも実験的であるが、「ポルノコミック」という形として積極的にあろうとしている作品だと思っている。
SFとしてスゴいだとか、エロ漫画の枠を超えてるとか、まあそう言いたくなる気持ちもすごくわかる。究極の話、エッチなシーン全部飛ばして読んでも結構面白いと思うし、それでも一読の価値がある作品だとも思う。実際私だって、これを読んでいるときって普通のポルノコミックを読んでいる時の気持ちでは全然ない。
でもこんな奇抜なことをやっても「ポルノコミック」であろうとするこの作品のことを、私は本当にカッコいいと思っているのだ。
だから言いたくなった。「『出会って4光年で合体』をポルノコミックとして読め!」って。
何故とは言わないが、『出会って4光年で合体』を読み終えた後に、クライマックスのセックスのシーンを私はもう一度再読したぞ。かかってこい。
『お菓子作りアイドル☆ギミー!監禁調教漫画』
ところで、作者「太ったおばさん」の作品を網羅しているわけではなく恐縮なのだが、『お菓子作りアイドル☆ギミー!監禁調教漫画』が好きだったことを思い出した。この作品は”ポルノ装置”がふつうの形で機能している作品である。「太ったおばさん」がふつうの形で用いられる”ポルノ装置”をおちょくるタイプではないだろう、というのは、知らず識らずにこのあたりを読んだ信用から来ているのかもしれない。すなわち快楽装置としてのポルノの度合いが濃いのだが、ここにも「美しいものを汚してしまう」だとか、「性愛と歪んでいるが純粋な愛」みたいな共通するものを感じることができる。*6私も、是非今後他の「太ったおばさん」作品についても読んでみたいと思う。
*1:筆者も、キラキラしたイケメンがヤッてるよりも醜いおじさんがヤッてるほうが変に気が散らなくて好きだ。
*2:これをパロディした『出会って5秒でバトル』という漫画/アニメがあったため、最初5秒と間違えて書いていたことを白状する。
*3:AVを見たことがないと気取る気はないのだが、本当にこのシリーズはちゃんと見たことがないため、間違っていたら申し訳ない。
*4:射精という意味ではない。
*5:最後のセックスシーンだけ抜粋しても45ページある。一般的に同人誌が30ページ前後とすると、前フリが長すぎるだけでポルノコミックとして十分な分量である。しかもここ以外にもポルノシーンは存在する。
*6:要素としては他にも「催眠術」「アナルプラグ」「精飲」とかも出てきて、おぉ……と思った。