日陰の小道

私のロジックは私みたいな話をしたりします

TVアニメ『スローループ』OP『やじるし→』の映像の動きと繋がり

現在放送中のテレビアニメ『スローループ』が大変面白い。
slowlooptv.com


元々原作コミックが繊細な心情描写やドラマティックなコマ割りに長けていて非常に面白いのだが、アニメでは映像として更に作中の空気感をうまく膨らませることに成功しているように感じている。原作の出来が良いだけに、当初は見る側としても緊張もあったせいか、少々固いような気もしていたが、回を重ねるごとにアニメの良さをしっかりと受け止められるようになってきているのを感じている。


さて、今回は本作のOP映像がとても心地よく、ちょっと真剣に見て思ったことに関してつらつらと記していきたいと思う。普段OPに関して単独で記事を書くことはあまりないので、このブログとしてはやや珍しい話になるかもしれない。
youtu.be


OPに存在する左・右の運動

スロウループ(Slow Loop)というタイトルにもなっているように、この作品において”輪”というのは重要な要素の一つである。
作中でループという単語が使われるのは釣りのキャストの場面。フライフィッシングの際にフライを飛ばすためにロッドを前後(フォワードキャストとバックキャスト)させ、その際にラインがつの字になることを『ループ』と呼ぶ、というふうに解説されている。すなわち、「進み・戻る」という2方向の動作によってループを表現することができるとも言える。ここでは、OPの随所に散りばめられた「左・右」の動きに着目してみたい。


f:id:cemetrygates1919:20220123162201j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162207j:plain
まずは左側からひよりがフライを投げるシーン。フライに引っかかるように『スローループ』のタイトルロゴが引っ張られてくるのが面白い。

左:左に向かってフライを投げるひより。
右:フライに引っかかって右側に釣られるタイトルロゴ。


f:id:cemetrygates1919:20220123162232j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162246j:plain
冒頭のカットに続いて左へと向かうシーンが続く。

左:海沿いを左に向かって歩く3人。
左:家へと走っていく小春。カメラが左にパン。


f:id:cemetrygates1919:20220123162313j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162319j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162325j:plain
シーンが切り替わっていく。右の動きを一旦挟みつつ、引き続き左のシーンが続く。

右:釣具店「Permit」店内に入るひよりと小春。
左:店内の恋を映すカメラの左へのパン。
左:BASE FIELD入り口の一花(ドアは右に開く)続いての店内の楓のカットも前のシーンからの位置としては左の移動。


f:id:cemetrygates1919:20220123162400j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162415j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162422j:plain
サビ前で動きが右へと変化していく。

右:双葉・藍子の後ろを右向きに歩いていく男子。
右:フライを追いかけ右向きに泳ぐ魚。
右:魚を釣り上げる小春の動きも右気味。


f:id:cemetrygates1919:20220123162439j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162455j:plain
サビに入るとここで左右に細かく動く。ひより・小春・恋の3人が5通りの衣装で次々と登場するが、それぞれの動きが交互に左右になっている。恋のカットを例に挙げる。

右:1人目、エプロン姿の恋。
左:2人目、ショルダーバッグの恋。
右:3人目、日焼けガードの恋。
左:4人目、箸を持った恋。

5人目のカメラを持った恋が最後に中央に残る。
ちなみに3人の人物の各衣装別の順番の動きも交互になっている。ひより(1人目:左)→小春(1人目:右)→恋(1人目:左)という風に。
また更にここで人物のカットは全体的には左に動いて登場するが、次の食べ物のシーンは全て右に切り替わっていく。
ちなみに、続いてのエサのイソメのカットはイソメが元気に左右に動いている。


f:id:cemetrygates1919:20220123162733j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162757j:plain
夜空のシーンでも緩やかに左右の動きがある。

左:正面のカット。左へと歩く小春。
右:後ろのカット。配置が左寄りなので、カメラが右の空間を広げるように引いていく。


f:id:cemetrygates1919:20220123162819j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162827j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162836j:plain
釣りのカットも左右に交互に動きがある。

右:幼ひよりの目線を意識させるようにカメラが右に回り込み、父の姿が見える。重なるように登場するひよりも右向き。
左:ひより後ろのカット。左に向かってひよりに走り寄る小春と、歩み寄る恋。
右:ひより前のカット。右に向かってひよりに抱きつく小春と、歩み寄る恋。

f:id:cemetrygates1919:20220123170638j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123170632j:plain
写真が次々に並べられるカット。直前の写真との関係を右回り、左回りで区別することができる。進み・戻るとは少し異なるが、ここの回転めいた流れに関してもメモしておく。
右端の向きに関しても記す。

左:ひより・小春・恋の3人。若干左回りに回転する。右斜め上。
右:海凪一家4人。右斜め下。
右:エプロン姿の恋。左斜め下。
左:店内の一花。右斜め上。
右:厨房の楓。右斜め下。
左:双葉・藍子と男子。右斜め上。
右:玄関先の双葉。右斜め下。
左:吉永一家6人。右斜め下。
右:縁側のひより・小春。右斜め下。
左:文化祭のひより・恋。右斜め上。
右:布団の小春・恋。右斜め下。
左:星空。右斜め上。

並べてみるとここでも左右の動きがあると受け取ることができる。
並べていくさまは一周して円を描く回転っぽくもあるが、写真が上下逆さまにはならないのでどちらかと言えば振れている印象が強い。


OPを見てみると左右の動きがこれだけあることがわかる。スローループだから行き・戻るの動きが貫徹されているというよりは、単純に映像が単調にならないように、ということももちろんあるだろうが。
特筆すべきはAメロで左の流れに寄っていた映像がぐぐっとサビ前では右へと流れが変わり、サビでは左右にテンポよく振れている、という流れ。楽曲の盛り上がりと同時に変化を感じさせる一連の映像に、とても気持ちよさを感じる。

シーンの接続で表現される”繋がり”

異なる各カットをつなげるにあたって、近い要素で接続をするような手法が多く用いられている。


f:id:cemetrygates1919:20220123163546j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162246j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162313j:plain
海沿いを走る小春のカットから、海凪家玄関の小春のカットにスムーズに繋ぐ。続いての釣具店のカットも小春が主体となって動く。


f:id:cemetrygates1919:20220123162313j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162325j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123163620j:plain
また、ここでは常に扉・入り口のカットが続く。家、釣具店、飲食店、家という風に常に近いシチュエーションでカットをつないでいる。
Aメロのラストで外へと歩く双葉を映し、一連の流れは〆。


f:id:cemetrygates1919:20220123163710j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162415j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162422j:plain
それぞれカットを挟みつつ、魚の真似をするひより→フライを追いかけ食いつく魚→魚を釣り上げる小春、の流れ。全て二人の渓流釣りのシーンからのカットか。


f:id:cemetrygates1919:20220123162757j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123163905j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123163927j:plain
星空を”見上げる”ひよりと小春のシーンから、ひよりの瞳をアップにしてから父を見上げるかつてのひよりのシーンへと繋ぐ。更にディゾルブをかけて父とひよりの姿を切り替えて、再び現代のシーンに戻ってくる。


f:id:cemetrygates1919:20220123162232j:plainf:id:cemetrygates1919:20220123162827j:plain
前後ではないが、再び遠目に3人を映すカットは冒頭のカットと近い構図。ラストカットの方が上向きで空が見えている。


このように、シーンが切り替わりながらもそこに緩やかな繋がりが生まれている。そしてラストに似た構図で「ループ」することによって「やじるし→」の映像の輪が完成する。
スローループという作品は人の輪や趣味の輪が緩やかに繋がって、広がっていく物語だ。アニメの始まりを告げるこのOPで、こうした”繋がり”を感じられることは、純粋に映像が心地よいという以上に、素晴らしさを感じることができる。

「暖かい時期は魚を釣って 寒い時期は動物を狩って」
「その動物の毛で毛針を作ってまた魚を釣る」
フライフィッシングと狩猟って似てるだけじゃなくて」
「つながってるんだなって」

――『スローループ』5巻より




このOP映像の絵コンテ・演出を務めたのは橘秀樹氏。他に何か印象的なOPがあっただろうか、と見てみると自身が監督も務める武装少女マキャヴェリズムのオープニングアニメーションの絵コンテ・演出を松根マサト氏と共同で手掛けている。
このOPは、天下五剣の少女たちが主人公の納村と入れ替わり立ち替わりで流れるようにシーンを繋げていくサビが非常に印象的だった。Youtubeにはなかったが、必見の映像。
anime.dmkt-sp.jp


マキャヴェリズムと同じく松根氏と組んで橘氏が絵コンテを務めた、今度は松根氏監督作品のWIXOSS DIVA(A)LIVE』でもサビで登場キャラクターが入れ替わり立ち替わり次々に登場。
youtu.be


つい特別好きなOPを挙げると共同のものになってしまったが、最近だと橘氏が監督も務める『魔法科高校の優等生』のオープニングアニメーションも絵コンテ・演出で手掛けている。
ほのかちゃんがずっと口開けてるのが好きすぎる
youtu.be


魔法科高校の優等生』サビでは、視線誘導を左右に振りつつテンポよくカットを切り替えていく手法がいい具合に気分を盛り上げる。
これらOPでは一連のカットの流れがバトルシーンの迫力を増すように作られているが、『スローループ』では作品の性質も相まって、よりしなやかな印象を受けた。


©うちのまいこ・芳文社/スローループ製作委員会
本記事における画像は、全て『スロウループ』オープニングアニメーションから引用。