日陰の小道

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『北極百貨店のコンシェルジュさん』を見た日のこと

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とにかく、私は映画館に映画を見に行くのが苦手である。年単位で考えても、今年はゆうに片手で数えられてしまうほどしか足を運んでいない。そういう性分なものだから、ちょっとネットで評判が気になる作品だとしても、相当のヒット作でなければ、ぼんやりしているうちに、あっという間にあれよあれよと上映館は減ってしまう。そんな11月下旬、珍しく映画館を訪れたことでにわかに映画モチベーションが高まっていて、では前から気になっていた作品を見に行くか! と思い立ったのが24日の事。映画の公式サイトをチェックし、最寄りの映画館の名前があることを確認した私は、同時に添えられているこの一文を目にするのであった。
「11/23(木)公開終了」その日は1日前の、勤労感謝の日であった。

そうして、普段乗らない電車を乗り継いで、初めての駅に降り立ったのが今日である。「流山おおたかの森」何やら自然豊かな雰囲気を感じさせるこの駅は、近年再開発目覚ましいらしく、新たなベッドタウンとしてスマートに整った駅という印象の場所であった。同名の「流山おおたかの森 S・C」なるショッピングセンターは駅直結で、雨に振られずにすぐにショッピングが可能と、利便性の高さを感じさせる。これはどうも高島屋系列の建物だということらしい。
この「おおたかの森」の由来は駅近くの森に絶滅危惧種であるオオタカが生息しているからとのことらしいのだが、駅前だけを見た印象では森は森でもコンクリートジャングルという感じである。少々調べてみると、再開発に伴ってその森も減少し、せっかく名を冠したオオタカも数を減らしてしまった、という話も目にしたりする。そう思うと、この名前はなんとも皮肉なようにも感じられてしまった。

さて、そんなおおたかの森で私が見た映画というのが『北極百貨店のコンシェルジュさん』である。絶滅種の動物たちが集まるちょっと不思議な百貨店で、見習いコンシェルジュの主人公・秋乃の奮闘をポップかつユーモラスに描く。動物らで溢れる奇妙な光景以外はシンプルなお仕事モノという感じの話運びであり、滅私奉公的でもある接客業というのは、既に前時代的と言っても差し支えない百貨店というモチーフも相まって、やや古めかしい印象を受けた。とはいえ実際のところは、生き生きと描かれるアニメーションに、テンポよくコミカルなやり取り、更には秋乃や周囲の人々の愛嬌もあり、スルスルと映画の世界に引き込まれてしまった。何よりもカラフルな動物たちのお客は、老若男女問わず可愛らしく、映画のポップなイメージを形成するにあたって、非常に大きな働きをしていると感じた。

このように楽しげな映画なのだが、絶滅種という要素がわざわざ出てきたのが引っかかっていた。はてこれはどのような意図をもって用意された設定なのだろう、と首を傾げながら見ていると、劇中でその北極百貨店のあり方が解説される。実はこの百貨店、人間の欲望によって絶滅した動物たちを、その人間の消費行動を逆に体験していただくことでもてなす、という百貨店なのだそうな。ひえ〜。とすると一転、古き良き百貨店のイメージは前時代的な大消費時代の負の遺産、そこでお客様のためにと粉骨砕身働く人間たちは絶滅種への贖罪をさせられているような構図になる。
しかし本作はそういう「愚かな人間への警鐘」とでも言うべき説教感は設定の提示だけに止め、動物の側から消費行動を肯定してみる。それは、「大切な人への贈り物」という形で描かれる、隣人への思いやりや優しさである。こうして憧れの綺羅びやかな世界から、忌むべき消費社会の象徴として貶められた百貨店は、古き良き人々の繋がりと共にある場所として再び輝き出す。
形あるものはいつか壊れる、という台詞があったが、絶滅種へ対してもそうした「隣人への思いやり」があれば違う未来もあったのではないか、と思わずにはいられなかった。これもまた、所詮人のエゴでしかないのだけれど。

そうした思わず考えさせられる構造を持つ作品なのだが、コンシェルジュとして健気に頑張る秋乃はそんな百貨店の隠された思惑からも切り離されて、ただお客様への思いやりを胸に、とにかく邁進している。結局、本作の大半を支配しているのは、そうした暖かな空気感なのでであった。そして、滅私奉公は前時代的などと斜に構えていた私も、いつしか絆されてしまう。ああ、どこか前時代的な人の繋がりと共にある百貨店なんて、素敵じゃないか、と思ってしまう。
この映画について、何か一つ最も素晴らしいものを賛美するならば、やはり舞台たる百貨店をこれでもかというぐらいに魅力的に描いてみせた、本作のアニメーションの力強さなのだろうと思った。

目まぐるしく移り変わっていく現代の流れに飲み込まれながらも、ふと見つけた小さな素敵なものに目を向けられる生活をしたいな、などと思いながら、私は映画館を後にした。
外に出ると、ショッピングモールの並木に電飾が灯っている。まだ11月だというのに、こうした光景を見ると、世間はもうクリスマスムードのようである。きらきらと灯りを生やす木々の隙間に、煌煌と輝く、高島屋の文字が見えた。